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暗黒の時代があった

1 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:16:25.27 ID:GmPFdS+C.net
 暗黒の時代があった。力の弱い者が強い者に蹂躙される、そんな時代だ。
 不幸にも、そんな時代に生まれ育ってきた1人の少年がいた。彼の名は、テレマウ・ク
アイサ。暗黒の時代と呼ばれる現代で比較的安全で治安のいい町、ラフテルに住む15歳の
少年だ。
 クアイサは今、同い年ほどの少年達3人から虐めを受けていた。
「早く金よこせっての!」
 うずくまるクアイサに蹴りを入れる虐めっ子のリーダー、パンダ・ジョン。
「無理ー! これ買い物に必要な金!」
 うずくまりながら、そう必死に訴えるクアイサ。
「俺達が使ってやるっての!」
「ほら渡せ!」
 次々と虐めっ子3人から蹴りを浴びせられるクアイサ。しかし、どんなに痛めつけられ
ようと、握り締めたお札だけは決して放さなかった。
 「何が安全安心の町ラフテルだ……」とクアイサが心の中で皮肉る。
 安全安心の町、ラフテル。間違ってはいない。首都から大分離れているお陰もあり、凶
悪組織であるガバンの手が届き難いのだ。そのため、ラフテルだけでの治安維持が成り立
ち、犯罪発生率も低くなっている。しかし、いくら町の治安がよくとも、今は力が物を言
う暗黒の時代。治安部隊の目の届かない所では、今もこうして日常的に犯罪が横行してい
るのだ。
「こいつしぶといな。なあ、魔与(まよ)でとっとと終わらせようぜ」
「そうだな」
 仲間の提案を聞き入れたジョンは、魔与と呼ばれる特殊な力を使って、クアイサを宙に
浮かせ始めた。
「何する気だよ……? やめろよ……」
「大人しく金渡してれば痛い目見ずに済んだのにな」
「…………」
 楽しそうに話すジョンを見て、クアイサは恐怖する。

2 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:17:08.90 ID:GmPFdS+C.net
 クアイサの左腕を両手で掴むジョン。
 ジョンが両手に力を入れると同時に、クアイサの表情が歪む。
「ぐっ……! あっ……、あ……うわああああああああ!」
 左腕に走る激痛。あまりの痛さに、クアイサは叫ぶ。
「どうだ? 痛いだろ? もう少し力を入れればポッキリだぜ?」
 暗黒の時代。そんな時代を招いた最たる原因である力、魔与。力の弱い者は強い者に蹂
躙されるしかない。クアイサは今、この暗黒の時代というものがどんなものなのかを、改
めて思い知った。
「ずいぶん胸糞悪い事してんのね」
「あ?」
 突如響き渡った大きな女性の声に、ジョンの注意がそれる。そのお陰で、クアイサを苦
しめていた魔与の行使が止まり、クアイサはようやく地面に付く事ができた。
 そして、4人の視線の先には、長くも綺麗な銀髪をした少女の姿が。
「誰?」
「さあ?」
 ジョンもその仲間も、銀髪の少女には見覚えがなかった。
 そんな彼らに構わず、少女は口を開く。
「痛めつけるだけだなんてまったくクールじゃないわ。魔与っていうのはね、こう使うの
よ!」
 4人から少し離れた所で爆発が起きる。
「どう? 派手でかっこいいでしょ?」
「おい……、あいつの魔与強いぞ。ヤバくねえか?」
「ああ!?」
 突如、ジョンの仲間の1人が、驚いたように大きな声を上げた。
「いきなりどうした?」
「あいつ……腕に赤いバンダナ付けてる……。あれって、ガバンが付けてるのと似てるよ
うな気が……」
「なに!?」
 赤いバンダナのことを聞かされたジョンは、顔色を変えて驚く。
 無理もなかった。凶悪組織であるガバンに属する者は、どちらかの腕に赤いバンダナを
巻くからだ。

3 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:17:57.25 ID:GmPFdS+C.net
 しかしジョンは、まだ完全に信じる事ができなかった。自分達と同じくらいの歳の少女
が、ガバンに属してるとは思えなかったからだ。
「おい、お前! その赤いバンダナ、ガバンの証なのか?」
 ジョンは恐る恐るも少女に尋ねる。
「口の聞き方に気をつけなよ。あんた私が子供で女だからってなめてる?」
「なんだと?」
「このシンボル見ればわかるでしょ? 私がどういった人間なのか」
 鎖に巻きつかれた赤い丸と、それを囲むように描かれたギザギザの円。汚れた太陽を意
味すると同時に、世界を照らす太陽のように世界を支配するという意味が込められたそれ
は、紛れもないガバンのシンボルだった。
「あいつやっぱりガバンの人間だよ。もう行こうぜ。関わったらヤバいよ」
「…………」
 仲間から関わることは危険だと告げられるジョンだったが、何を考え込んでいるのか、
ジョンはただ黙るだけだった。
「おいジョン!」
「…………わかってる。行くぞ」
 この場を離れていくジョンとジョンの仲間2人。
 この場にいるのは、クアイサと銀髪の少女だけとなった。

4 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:18:47.92 ID:GmPFdS+C.net
「あんた、運が良かったわね」
「…………こ、殺さないで……」
「え?」
 銀髪の少女にしてみれば助けたつもりだったのだが、危害を加えられると勘違いしたク
アイサは逃げ出してしまう。
「ありゃりゃ……。まっ、無理もないか」
「ん?」
 突如鳴り出す電話の呼び出し音。
 「もしもし?」と銀髪の少女が応答する。
「報告はどうした? 見つけたのか?」
「あーごめん、まだ。というか、本当にこの町にいるの? 可能性が高いってだけなんで
しょう?」
「僅かな可能性でも、『あれ』は必ず見つけ出さなければならない。引き続き捜索を続け
ろ。報告を忘れるなよ」
「はいはい」
 そこで電話は切れた。
「ふう……。さて、探さないとね」

5 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:19:35.56 ID:GmPFdS+C.net
第1章 出会い

 クアイサは走っていた。少しでも、あの銀髪の少女から離れたくて。
「……っ!? 商店街……。あそこまで行けば……!」
 クアイサがいつも買い物で訪れる商店街。それが見えてきた事でクアイサは一先ず安心
する。商店街は人通りも多く、治安部隊も頻繁に見回りをしている。あそこならさすがの
ガバンも襲ってはこれない、そうクアイサは思ったのだ。
 残りの体力を引き出し商店街の大通りに出たクアイサは、そこでようやく足を止める。
そして、予定に入っていた買い物を済ませるのであった。
 買い物を終えた帰り道、クアイサは橋の下に奇妙な物を見つける。
「なんだあれ?」
 それは倒れている人影にも見えた。
 気になったクアイサは橋下へと下りていく。
「……っ!?」
 クアイサは驚く。人のように見えたそれは本当に人だったのだ。
「大丈夫ですか!? しっかりして!」
 うつ伏せになって倒れていたのを仰向けにして起こすクアイサ。
 倒れていたのは茶髪の少女だった。
 服は汚れ、濡れてもいる。
「……お……な……か」
 目を覚ました茶髪の少女は、小さな声で呟き始める。
「え?」
「……お腹……すいた……」
「あっ……! わかった、ちょっと待ってて」
 持っていた買い物袋から、先程買ったばかりの食べ歩き用チキンを取り出すクアイサ。
クアイサはそれを茶髪の少女に差し出し、食べられるかどうかを尋ねた。
 すると少女は、勢いよくチキンにかぶり付いた。余程お腹がすいていたのか、よく噛み
もせず次々と喉に流し込んでいく。チキンはあっという間に小さくなっていった。
 そして、チキンが残り僅かとなったところで、ある出来事が……。

6 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:20:19.94 ID:GmPFdS+C.net
「痛ッ!」
 なんと茶髪の少女は、勢い余ってチキンを持っていたクアイサの指にまでかぶり付いて
しまったのだ。幸いにもクアイサの指に怪我はなかった。
「ごめんなさい」
「あっ、うん、大丈夫……。はい、これ」
「ありがとう」
 残りのチキンを手渡された少女は、それも食べ終え見事にチキンを完食した。
「具合はどう? どこか痛かったり気分悪かったりする?」
「平気だよ」
「そっか。でも一応病院で見てもらった方がいいかも。今救急車呼ぶから――」
「いい」
「え?」
「救急車、呼ばなくて、いい」
「え、でも……………………」
 救急車を呼ぶ事を即答で拒否されてしまったクアイサは、どうしていいかわからず戸惑
ってしまう。
「もう行くね。ありがとう」
 立ち上がった茶髪の少女は、それだけを言い残し歩き出す。
 本当に平気なのか心配するクアイサだったが、立ち去ろうとする少女に掛ける言葉が見
つからなかった。
 少しずつ離れていく茶髪の少女。しかし、少し歩いた所で茶髪の少女は足を躓かせコケ
てしまう。
「なっ!? ちょ、大丈夫!?」
 すぐに駆け寄るクアイサ。
「……大丈夫」
「全然大丈夫に見えないんだけど……。やっぱり病院で見てもらった方がいいって!」
「病院はダメ」
「ダメって……。じゃあどうすれば……」

7 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:20:57.13 ID:GmPFdS+C.net
 病院へは行きたくない様子の少女。かと言ってこのまま1人にするわけにもいかないと
思ったクアイサは、茶髪の少女の家族か知り合いに迎えに来てもらおう、と思いつく。
「ねえ君。家の電話番号か、誰か家族の、知り合いでもいいけど、その人達の携帯の番号
とか知らない?」
 その質問に、茶髪の少女は首を横に振る。
「……まいったな。じゃあ住所は?」
 その質問にも茶髪の少女は首を横に振った。
「住所も!? …………」
 八方塞がりであった。
 クアイサは深い溜め息をつく。
「あとは、治安部隊に任せるしかないかなぁ。ちょっと待っててね」
 治安部隊に保護してもらうしかないと考えたクアイサは、携帯を取り出し連絡を取ろう
とする。
「………………あれ? おかしいな……」
 どうしたことか、いつまで経っても呼び出しが始まらない。
 クアイサはもう一度番号を押し、掛け直した。
「……………………。駄目だ、やっぱり繋がらない。故障か?」
「ヘクシュッ!」
 寒かったのか、茶髪の少女はクシャミをした。
「そのままじゃ寒いよね。とりあえず俺の家が近くにあるから、温まっていくといいよ。
服もあげるからさ。治安本部にはそれから向かおう」
 クアイサは茶髪の少女を家に連れて行くことにした。
「ごめんね。女性用の服ないんだ。もし嫌だったら言ってね。他のも用意するから」
 着替え用の服を置き終えたクアイサは、そのまま洗面所を出る。
 茶髪の少女には、風呂に入ってもらう事にしたのだ。服だけでなく体も汚れていたため。
 茶髪の少女が風呂に入っている間、クアイサは何度も治安部隊への連絡を試みた。しか
し、一向に繋がらない。家の電話を使っても繋がらない。
 クアイサは困り果てた。

8 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:21:28.92 ID:GmPFdS+C.net
 それならばと、治安部隊勤めの叔父に直接連絡を取ろうとするが、それすらも繋がらな
かった。
「叔父さんとも連絡つかないし、やっぱり直接行くしかないか……」
 しばらくして、風呂から上がった茶髪の少女がリビングに入ってきた。
「お風呂終わったよ」
「あぁ……、服、大丈夫?」
「うん」
「そっか、よかった」
「…………1人?」
 リビングを見渡しながら茶髪の少女が尋ねる。
「今はね。叔父さんと一緒に住んでるんだけど、叔父さんは仕事中だから」
「お父さんとお母さんは?」
「…………」
 両親について聞かれた瞬間、クアイサの表情が曇る。
「お父さんとお母さんは俺が2歳の時に死んだよ」
 まさかの答えに、茶髪の少女は驚いた。
「叔父さんが言うには、ガバンの人間に殺されたんだって」
「……そうだったんだ。ごめん」
 辛い事を思い出させてしまった事に申し訳なく思ったのか、茶髪の少女は謝る。
「気にしなくていいよ。まぁ、仕方なかったんだと思う。両親は魔与に恵まれてなかった
みたいだから」
 魔与と呼ばれる特殊な力が猛威を振るう暗黒の時代。魔与を扱える者とそうでない者と
では、5年以内の死亡率が大きく違った。力の強弱の差によって死亡率も変わるが、最低
限魔与を扱える者で約7パーセント、そうでない者で約30パーセントにも及ぶ。この暗黒
の時代では、魔与を扱えない者・魔与の力が弱い者は、長生きできないのだ。誰が調べ誰
が付けたのか、世間ではこの死亡率を「暗黒死亡率」と呼ぶ。

9 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:22:52.76 ID:GmPFdS+C.net
「魔与が全ての世界……。最悪の時代……だよね」
「……そうだね。あ〜、俺もいつまで生きられるかな〜。なるべく長生きしたいもんだ
よ」
 少し湿っぽくなった空気を変えるためか、クアイサは冗談っぽく話しながら、笑ってみ
せた。
「貴方も魔与には?」
「あー、うん。俺も両親と同じ。遺伝とかはないって言うけど、ここまで恵まれてないと
そういうの疑っちゃうよね。あっ! そうそうそう! 貴方って言われるとなんか変な感
じするからさ、クアイサって呼んでよ」
「……クアイサ」
「そっ。テレマウ・クアイサ。よろしくね」
 クアイサの自己紹介に対し、茶髪の少女は微笑んだ。そして少女もまた、「よろしく」
と返すのであった。
「そういえばさ、君の名前まだ聞いてなかったんだけど……」
 照れくさそうに、名前の事を切り出すクアイサ。
 茶髪の少女は、こころよく名前を明かした。
「レイフォール・ロカリス」
「レイフォール・ロカリス……か。いい名前だね! 改めてよろしく!」
「うん」
「それにしても……、夕方から随分ヘリが飛んでるな。気づいてた?」
 ロカリスは頷く。
「何かあったのかな……」
 ガバンの銀髪少女、橋の下に倒れていたロカリス、繋がらない電話、頻繁に飛んでいる
ヘリ。普段なら起きないような事の数々に、クアイサは不安になる。

10 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で@\(^o^)/:2017/01/30(月) 22:23:52.23 ID:GmPFdS+C.net
「とりあえず、そろそろ治安本部に向かおう……って、どうしたの?」
 ロカリスは鬱陶しそうに、長い前髪を両手で何度も掻き分けていた。
「私このままじゃ前見えづらくて事故起こすかも。ハサミある?」
「ええ!? まさか、切るつもり……?」
「だって邪魔だもん」
「冗談じゃ……ないよね……?」
「失礼な。真面目な話だよ」
 出会った時から変わらないロカリス独特の少し気の抜けたような喋り。そのせいもあり、
一瞬冗談とも思えたクアイサだったが、ロカリスは本気だったと知る。
「自分で切るのはやめた方がいいと思うけどなぁ。見栄え悪くなるかもしれないし」
 クアイサはハサミを手渡す。
「大丈夫! 上手くやるから!」
 やけに自信満々なロカリス。
 しかし、いざ切ろうとなった時、ハサミを持ったロカリスの手は止まってしまう。
「…………あの、ロカリスさん?」
 鏡に向けていた顔をゆっくりクアイサの方へと向けるロカリス。ロカリスの顔は、ガチ
ガチに引き攣っていた。
「切れない……」
「いやさっきの自信はどこに!?」
「なんかね、鏡に、前髪が変になった自分のビジョンが映った気がして……」
「要するに、自信を無くしたってことか(1分もしない内に)」
「うん……」
「はぁ……」
 あまりにも早すぎる自信喪失に呆れ、クアイサは溜め息をつく。

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