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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【244】

38 :第六十三回ワイスレ杯参加作品:2023/12/13(水) 19:02:48.81 ID:/C6rOuaK.net
 道路に雪が積もったため自転車で登校できない、それまでは良かった。そのことを見越して、今日は30分ほど早く起きていたから。
 俺の家から学校までの距離はそう遠くないし、ゆっくり歩いても始業前に余裕で学校に到着できる……はずだったのに。
「お前、道端で何してんの?」
「スケートごっこしてたら、足を挫いちゃって。学校までおんぶしてくれない?」
 凍った水たまりの上でうずくまっているそいつを見つけた途端、俺の予定は一瞬で崩壊した。
 スケートごっこなどというアホの極みのような所業で怪我をした挙句、図々しくも俺におんぶを求めてきたやけに小柄なこの女子高生は、俺の幼馴染だ。
「はぁ、まずは足を見せろ。手当してやるから」
「それは自分でやったよ! いつ転けてもいいように、手当する用のガーゼとかは常備してるから!」
「多分だけど、注意を払う所間違えてるぞ」
「でも、私が怪我したら拾ってくれるでしょう? そうやってなんだかんだ優しいところ、私は好きだな」
「……あぁ、そうかよ」
 えっへん、と言わんばかりに無い胸を張っているのを見て、俺はやっぱりコイツのことが嫌いだと思う。
 コイツは生粋の天然、というかアホなので、危なっかしくて放っておけない。そういうところが、気に食わない。
「ならさっさと背中に乗ってくれ。お前のせいで遅刻だなんて御免だぞ」
「じゃあ、乗るよ。よい……しょっと!」
「あっ、意外と……」
「今、重いって言おうとした?」
「違う、違うから首を締めるのはやめてくれ」
 思っていたよりは軽いが、それでも重い。大体40kg弱ってところだろうか……なんて考えている俺の首を、かなり強めに締め付けているか細い腕をタップしながら、俺はやっぱりコイツのことが嫌いだと思う。
 行動はアホとしか言いようがないのに、年相応に女子としてのプライドは持っている所が面倒だ……お前のことをおんぶする側の俺のことは、ちっとも男として見やしないくせに。
「大丈夫? 疲れてない?」
「……ん? ああ、平気だよ」
「本当に?」
「男子高校生の体力舐めんなよ。このくらい何ともない」
「……はーい」
 強がってはみたものの、正直なところかなり疲れているというのが本音。それを察したように静かになった幼馴染を見て、俺はやっぱりコイツのことが嫌いだと思う。
 こんな所で気を使うなら、最初から転けなければいいのに……そんな憎みきれない所に、却って腹が立つ。
「はぁ、はぁ……着いたぞ。時間は……5分前、セーフだな」
「本当に1度も降ろさずに学校まで運んじゃうなんて、やっぱり男子は体力あるんだ。ありがとね、おんぶしてくれて」
「いいよ、大丈夫……ちょっと水飲みたいから待っててくれ」
 そんなこんなで幼馴染を背負いながら歩くこと約25分、ようやく学校にたどり着いた俺は、息を整えつつ火照った体を冷まそうとカバンから水筒を取り出……水筒を……あれ?
(水筒、忘れた)
 最悪だ。俺は水道の水を飲みたくないタイプなので、冷水機は使えない。
 仕方ないし、教室に行ってから男子に水を分けてもらうか……なんて考えていた、その時だった。
「これ、飲む? 飲みかけ、だけど」
「いや……じゃあ、ありがたく」
 上履きに履き替えたばかりの幼馴染が、鞄から取り出した水筒を俺に差し出す。ああ、やっぱりコイツのことは嫌いだ。わざわざ飲みかけだなんて言われなければ、何も意識せずに飲むことが出来たかもしれないのに。
「少しは気にしろよ、そういうの。俺だって何も思わないわけじゃわないんだぞ……はい、返すよ」
 そんな態度に腹が立ってしまい、俺は思わず愚痴をこぼしてしまう。その後すぐに自分の発言の意味に気づき、揶揄われるのではないかと思ったが……
「私だって、恥ずかしいんだよ?」
(……は?)
 彼女から帰ってきたのは、予想外の言葉。あまりに唐突にそんな小っ恥ずかしいことを言うものだから、冷たいお茶を飲んだはずなのに逆に体温が上がってしまったように感じる。
 ああ、やっぱり俺はコイツが嫌いだ。ただの幼馴染の筈なのに、俺の心の中を無断で占領してくる。こんな奴に惚れるなだんて、俺のプライドが許さない。
 だから、俺は今日も自分に言い聞かせる。やっぱり俺はコイツのことが嫌いだ、と。

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