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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【244】

147 :第六十三回ワイスレ杯参加作品:2023/12/16(土) 22:34:18.17 ID:XjmDInn0.net
『たけし。動画配信しながら墓参りって不謹慎じゃね?』
 コメント欄に常連達のメッセージが流れている。たけしは俺の配信名だ。年の瀬だってのに、俺は配信をしている。
 雪の上に設置されたカメラは撮影用。そばに置かれたスマホは、コメント確認用。現在地は地元の墓場で、時刻は日没前だ。
「ほら俺って寂しがり屋でさ。おまえらに見ててほしくてさ。ぼっちで墓参りとか鬱過ぎるだろ? 彼女もいないし、配信でもしなきゃやってられねぇよ」
『彼女いると思ってた』『狙ってる子もいないのか?』 
「好きな幼なじみはいたんだ。でも、月始めに遊びに行く約束をすっぽかしちまって……クリスマスに、そいつ、ほかの男と歩いてた」
『今好きって言った?』「まあその話は置いといて!」
 
 はっと吐く息が白い。雪だるまは海苔の眉毛が落ちかけて、泣きそうな顔だ。
『なんで雪だるま作ってるの?』「雪だるまを墓に備えてほしい、とばあちゃ……ババアが言ったから。俺、偉いだろ」
『場所特定した』『怖いから止めろw』
 常連のねここが冗談書いてる。いつも通りだ。安心する。
『ババアの話して』「ババアは……俺、ちょっと苦手だったな」
『辛辣。死者は敬ってやれよ』
「いや、昔は優しかったんだぜ? でもボケちまって、自分が中学生だと思いこんでいたんだよ。俺のことも分からなくなって、自分の中学時代に流行っていたアニメの話ばかり繰り返してさ」
『忘れられるのはつらいよな』『きっっつ』『昔はおばあちゃんっこだったのか』
 去っていく視聴者もいるが、共感してくれる奴もいる。ありがとう!
 しんしんと降る雪の中で、俺はばあちゃんのスマホを取り出した。親に「棺に入れ忘れたからせめて墓に持って行ってくれ」と言われたんだ。

『ババアのスマホ? 中身見れる?』「見られるわけ……そういや、パス、掛けてないんじゃないか?」
『バッテリーがないかも』 『配信用モバイルバッテリーで充電して中身見よう』
 
 ばあちゃんは、スマホを使うのが苦手だった。でも、苦手なりに何か弄ってた。何をやってたんだろうな? 自分の好きなアニメについて検索してたり? 実はネットに友達がいたりして? SNSでやべー発言してたりして? ひえっ、気になるぜ。
 充電して電源を入れると、面白がった視聴者が「あれをしろこれをしろ」と指示してくる。サンキューカッス。
 そして、俺たちは見た。
『あっ』『アッ……』
「……検索履歴、俺のチャンネル名がある」
 ばあちゃんは、俺のチャンネルを登録していた。そういえば、俺が動画配信してるって話したことがあったかもしれない。まさか俺のチャンネルを探し当てていただと?
 というか、そのアカウント名には見覚えがあった。よく日本語があやしいコメントをくれていた視聴者だ。

「視聴履歴は……うわ、全部俺の視聴履歴じゃねぇか。最後は……あ」
『もしかして、その日に?』「いや、翌日だ。けど……そっか、倒れる直前まで……」

 喉が詰まったように、言葉が出て来なくなる。
 配信中だ。何か言わないと。スマホの画面でコメントが流れていく。読まないと。
 
 でも、俺の頭は真っ白で、何もできなくなってしまった。

 落ち着かないと。トークしないと。
 俺が何か言おうとしたとき、声がかけられた。
 
「見つけた、たけし」
 
 きゅっと雪を踏む靴音がして、ふっと影が差す。人の気配だ。誰かが俺の前にいる。
 視線を移すと、幼馴染の女がいた。湯気をあげる紙コップを持っている。
 まっすぐ伸ばした黒髪をしっとりと雪に湿らせていて、白いマスクをしていて。弾んだ息で眼鏡を曇らせている。
 
「なんで、ここに」
 ぽかんと問えば、彼女は笑った。  
「特定したって書いたじゃん」
 
 こいつ、常連のねここだったのかよ……!
 
「おばあちゃん、好きだったんだよね?」 
 動揺する俺の前で、彼女がやさしく笑って雪だるまの眉毛を直した。
「約束の日に救急搬送されたって、なんで言ってくれなかったの」
「言ったら、なんか変わったのかよ。どうせおまえは……」
 クリスマスの日にと、声には出さずに呟いた。そんな心の声を見透かしたように、彼女は笑う。
「一緒に歩いてたのは親戚だよ、会ったこと、あるはずなんだけどな……?」
 紙コップが渡される。甘い香りと温もりのホットココアは、美味しかった。

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