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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【212】

898 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 14:44:49.29 ID:UVgjw8vj0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
「って、もー難しいわねー、今回のお題!」
 夕食を用意している俺が振り返ると、スマホ片手に立ち尽くしている美穂が見えた。
「突然の出来事に立ち尽くすなんて、ヒトの生き死にとか、スマホを落とした時くらしか思いつかないわよ。どう思う?」と、突然に俺への問いかけ。
「へ?」夕食用の魚をさばいているのに、こちらこそ突然の出来事に立ち尽くすだよ。「いや、なんのこと?」
「えーとね、この一行から始まる物語を書かなくちゃいけないのよ、5ちゃんで」
「あー、美穂がいつもの見てるスレのやつ?」
「そ」
「立ち尽くすような出来事が、人の生き死にかスマホって美穂の振り幅ヒドくない?」
「だってそれぐらいしか思いつかないもん、……殺人とかの話じゃあ、ゼッタイ他の人とカブるわよねー」
「かぶっちゃ悪いの?」
「当たり前だよー、ショートストーリーは驚きがキモなんだから。人とカブちゃ驚きも半減だよ」
 ふ〜んと包丁を動かしながら俺は気のない返事をした。
 美穂はブツブツ言いながら、リビングに行きソファーにドカッと座り込んだ。

 さて料理に集中しよう。アラは煮つけにして、身は刺身かカルパッチョにしようか。そういえば初めてカルパッチョを食べたのは、美穂にプロポーズしたその時のディナーメニューだったな。
 あの日は大変だった。稼ぎの少ない俺はやっと金を貯め、婚約指輪を買ってマリーンルージュのクルージングディナーを予約したんだっけ。美穂もいっぱい喜んでくれてたな、指輪を出した時の顔は今でも忘れられない。

 そしてあの出来事……。クルーズも終わりウキウキ気分で下船しようとした美穂が、船と桟橋を繋ぐステップでつまずきコケそうになり、かろうじて手すりに手をついて持ちこたえた。
「大丈夫か?」後ろから俺が聞くと。
「……とした」と美穂は立ち止まった動かない。
「え? ほら後ろがつかえてるから進んで」
「アイホン落としちゃった……」
「どこに?」
 黙って海を指差す美浦。とりあえず立ち尽くす彼女を後ろから押し船から降ろした。
 桟橋からのぞき込むと、船と岸壁の間に黒い海面が見えるだけ。
「あーこりゃダメだ」
「あーん! 2人の思い出がーっ」
「でもほら昨日バックアップとったばかりじゃん」
 そう美穂が写真をたくさん撮ると思って、容量確保のためアイホンの中の写真をパソコンに移させたのだ。
「あーん! 今日の思い出がーっ」
「うーん……、じゃあもう一回乗るか?」
「え……」
「今日のことをやり直すんだよ、もう一度この船に乗るんだ。いつになるか分からないけど、待っててくれる?」
「うん……」
「じゃあやり直すんだから、とりあえず指輪返して」
「えーそこまでやるのー」
 半べその美穂がニッコリと笑った。

 そんな思い出に浸りながら料理していると突然。
「ア"ーーーーーーーーッ!」
 美穂が大声を出した。
 何だ!どした?と見るとさっきまで難しい顔をしていたのに、マァーリンルージュで愛されてぇ〜と、ご機嫌で歌を口ずさんでいる。
「思いついちゃった」
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

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