2ちゃんねる スマホ用 ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【212】

808 :『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/04(木) 04:38:21.86 ID:gsmhg7jh0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 あるべきものが忽然と姿を消していた時、人はこんな反応をするのか、などと他人事のように考えてしまう。
 他人事で済む話ではないのに、目の前の絶望を目の当たりにしても、まるで現実味が湧いてこない。
 現実逃避だった。
 膝から崩れそうになるのを壁に寄りかかり耐えながら、この凄惨な状況について考えてみる。アームチェア・ディテクティブならぬ、アームオンザウォール・ディテクティブだ。……そんなものはない。
 気を抜くとまた意識を別のところにやりそうなので、惨たらしい事件現場をしっかりと目に焼き付けて、推理を開始する。

 まず5W1Hをハッキリとさせよう。

 一つめ、誰がやったか?
 部外者ではないことは確かだ。この家のこの場所を自由に出入りできるのは家族だけである。容疑者は父・母・妹の三人に絞られる。
 二つめ、いつやったか?
 昨日の夜には無事だったことを私の目で確認している。よって、犯行は昨日の夜から今朝にかけて。今から数分前に犯行が及んだ可能性も否定できない。
 三つめ、どこでやったか?
 ここで。と言ってしまうのは浅慮というもの。持ち出した場所というのであれば、ここで間違いはない。だが持ち出すだけでは意味がないのだ。次の犯行が必ず実行されていて、証拠が残るとすれば、その第二現場となる。
 四つめ、なにをやったか?
 窃盗だ。犯人は私の大切なものを盗んだ。それから、第二現場で行なわれる犯行は、ええと……器物損壊? とか。とにかく、恐ろしい行為が行なわれる。
 五つめ、なぜやったか?
 私は家族の誰からも恨みを買うようなことはしていないはずだ。よって、私への嫌がらせという線は消える。となれば、欲に目が眩んだ者の犯行と言える。仮に犯人を特定したとして、二言目には『あなたのものだとは思わなかった』なんてセリフが出てくるかもしれない。推理が終わり次第、迅速に動く必要がある。もう少しだ。
 最後の六つめ、どのようにやったか?
 手を伸ばして掴む。そしてUターンしたのちに自室へと駆け込む。そんなところだろう。私と遭遇する可能性を限りなく少なくする為に、事はスピーディに進めたはずだ。

 ところで、私がここに到着する前に、ドタドタと廊下を駆ける音を聞いていた。私が知る限り、このおんぼろな家を考えなしに駆け回れるのは妹しかいない。

 私は忍び足で妹の部屋まで近づき、一気に扉を開けた。
「たのもーっ!」
「うわっ……な、なに? お姉ちゃん」
 すでに座っていただろうに、さらに腰を抜かしたような体勢になる妹。この慌てぶりからして、実にあやしい。現行犯は抑えられなかったが、急襲して正解だった。
「妹。我が妹よ。その可愛らしい口についているものは、なにかな」
「えっ……ええ!? プリンのこと? そんな、きれいに拭いたのに」
 妹はハンカチを取り出すと、急いで口を拭った。私がカマをかけたとも知らずに。
「きさまをプリン窃盗の容疑で逮捕する!」
「ぎゃああーーっ」
 もはや自供に等しかったので、妹に腕ひしぎ十字固めをお見舞いする。
「痛い痛い! べんごしー! べんごし呼んでー!」
「そんなものはないっ」
 姉として、妹を更生させてやらなければならない。個人的な感情ではない、これ愛の鞭なのだ。
「うりうりうり」
「いたたた! ギブー! ギブだよお姉ちゃん!」

 そうしてプリンの重みを妹に分からせていると、廊下から足音が聞こえてきた。ドタドタと騒がしく、ついさっき聞いた足音そのものだった。
 ……おかしい。足音の犯人はここで拘束しているのに。
 足音は何度か行ったり来たりしたあと、この部屋の前で止まった。
 そして、扉が開く。
「はぁ、はぁ、ここにいたのね」
 買い物袋をもった母だった。
「お母さん……?」
 母は肩で息をしていて、顔が紅潮している。
 さらに、口元には何かの食べかすがついていて。
「プリン、買ってきたから、食べよ?」
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

総レス数 1001
410 KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
read.cgi ver 2014.07.20.01.SC 2014/07/20 D ★