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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【212】
- 808 :『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/04(木) 04:38:21.86 ID:gsmhg7jh0.net
- 突然の出来事に立ち尽くす。
あるべきものが忽然と姿を消していた時、人はこんな反応をするのか、などと他人事のように考えてしまう。
他人事で済む話ではないのに、目の前の絶望を目の当たりにしても、まるで現実味が湧いてこない。
現実逃避だった。
膝から崩れそうになるのを壁に寄りかかり耐えながら、この凄惨な状況について考えてみる。アームチェア・ディテクティブならぬ、アームオンザウォール・ディテクティブだ。……そんなものはない。
気を抜くとまた意識を別のところにやりそうなので、惨たらしい事件現場をしっかりと目に焼き付けて、推理を開始する。
まず5W1Hをハッキリとさせよう。
一つめ、誰がやったか?
部外者ではないことは確かだ。この家のこの場所を自由に出入りできるのは家族だけである。容疑者は父・母・妹の三人に絞られる。
二つめ、いつやったか?
昨日の夜には無事だったことを私の目で確認している。よって、犯行は昨日の夜から今朝にかけて。今から数分前に犯行が及んだ可能性も否定できない。
三つめ、どこでやったか?
ここで。と言ってしまうのは浅慮というもの。持ち出した場所というのであれば、ここで間違いはない。だが持ち出すだけでは意味がないのだ。次の犯行が必ず実行されていて、証拠が残るとすれば、その第二現場となる。
四つめ、なにをやったか?
窃盗だ。犯人は私の大切なものを盗んだ。それから、第二現場で行なわれる犯行は、ええと……器物損壊? とか。とにかく、恐ろしい行為が行なわれる。
五つめ、なぜやったか?
私は家族の誰からも恨みを買うようなことはしていないはずだ。よって、私への嫌がらせという線は消える。となれば、欲に目が眩んだ者の犯行と言える。仮に犯人を特定したとして、二言目には『あなたのものだとは思わなかった』なんてセリフが出てくるかもしれない。推理が終わり次第、迅速に動く必要がある。もう少しだ。
最後の六つめ、どのようにやったか?
手を伸ばして掴む。そしてUターンしたのちに自室へと駆け込む。そんなところだろう。私と遭遇する可能性を限りなく少なくする為に、事はスピーディに進めたはずだ。
ところで、私がここに到着する前に、ドタドタと廊下を駆ける音を聞いていた。私が知る限り、このおんぼろな家を考えなしに駆け回れるのは妹しかいない。
私は忍び足で妹の部屋まで近づき、一気に扉を開けた。
「たのもーっ!」
「うわっ……な、なに? お姉ちゃん」
すでに座っていただろうに、さらに腰を抜かしたような体勢になる妹。この慌てぶりからして、実にあやしい。現行犯は抑えられなかったが、急襲して正解だった。
「妹。我が妹よ。その可愛らしい口についているものは、なにかな」
「えっ……ええ!? プリンのこと? そんな、きれいに拭いたのに」
妹はハンカチを取り出すと、急いで口を拭った。私がカマをかけたとも知らずに。
「きさまをプリン窃盗の容疑で逮捕する!」
「ぎゃああーーっ」
もはや自供に等しかったので、妹に腕ひしぎ十字固めをお見舞いする。
「痛い痛い! べんごしー! べんごし呼んでー!」
「そんなものはないっ」
姉として、妹を更生させてやらなければならない。個人的な感情ではない、これ愛の鞭なのだ。
「うりうりうり」
「いたたた! ギブー! ギブだよお姉ちゃん!」
そうしてプリンの重みを妹に分からせていると、廊下から足音が聞こえてきた。ドタドタと騒がしく、ついさっき聞いた足音そのものだった。
……おかしい。足音の犯人はここで拘束しているのに。
足音は何度か行ったり来たりしたあと、この部屋の前で止まった。
そして、扉が開く。
「はぁ、はぁ、ここにいたのね」
買い物袋をもった母だった。
「お母さん……?」
母は肩で息をしていて、顔が紅潮している。
さらに、口元には何かの食べかすがついていて。
「プリン、買ってきたから、食べよ?」
薄っすらと笑みを浮かべていた。
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