後味の悪い話 その183

355 ：本当にあった怖い名無し：2021/02/27(土) 11:10:19.19 ID:4ed5dKdu0.net

星新一

例えば近くにコインが落ちていて、誰も気づいていない、と思ったあなたはさりげなくしゃがんで手を伸ばす。
同時に誰かがしゃがみ、同じく手を伸ばす、いたたまれない瞬間。
一体何の話だとお思いでしょうな、では例え話を変えましょう。

あなたはお菓子をつまみながら、お友達と楽しくお喋りしている。
テーブルのお菓子はいつの間にか最後の一個、そしてあなたはなんとなく口寂しい。
でもあなたは、お菓子など興味ないふりをなさる。遠慮のない意地汚いやつと思われたくないから。そしてお菓子はいつまでも残る。
わかりますとも、我々吸血鬼もあなた方人間…いいえ、あなたと同じく恥も誇りも知っておりますから。
いきなり何を言い出すのかと、怪訝にお思いでしょうな。なぜ「あなた方人間」と言っておきながら言い直すのか、とも。
ああ、お気づきになられましたね。そんなに青い顔をして、まわりをきよろきょろ見回して。
ご安心を、あなたの血をいただこうとはもう思いませんから。
あなたは最後のお菓子と同じ、遠慮のかたまりなんですよ。
ですからあなたは安全です。ええ、絶対に安全ですとも。我々吸血鬼は恥を心得ておりますからね…。