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後味の悪い話 その166

778 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2016/10/31(月) 09:42:02.88 ID:XwSyBzKmO.net
モーリス・ルヴェル「フェリシテ」

中年にさしかかった、美しくもない娼婦フェリシテ。
娼婦にしてはおとなしい女なので、風紀係も見逃すし近所の人も挨拶ぐらいはする。

ある雨の夜、彼女に親しげに声をかけ傘に入れてくれた初老の紳士。
見覚えはないがどうやら客にしたことがあるらしい、と見た彼女がそれとなくラブホに誘導すると、男は断る。
今夜は友人宅に招待されているから駄目だが、暇なら友人宅まで話し相手になってはくれまいか、と堅気の女に対するように話しかけてくれるので彼女は快諾する。
おかげで道々楽しかった、土曜五時にお礼に伺いたい、と言われた彼女は快諾する。

男は菓子包みを提げて約束どおりに訪れ、二時間ばかりを過ごした。
フェリシテは男を、土曜五時を心待ちにした。

二年後の土曜五時。男は言った。
「僕はもうお前に会うわけにはゆかなくなった、嫁を貰うんでね。やはり家庭は必要だ、世話をさせる女を持たねば不便だ」
「僕にそう思わせたのはフェリシテ、お前なのだ。お前の親切が僕に身を固める決意を持たせたのだよ。これでドレスでも買いたまえ」

約束をすっぽかしてもどこからも文句の出る筋合いはないのに、男は律儀に別れを告げに来た。
嫌いになって捨てるわけでもない。
手切れ金までくれた。なんと親切な紳士だろう。

「こうしちゃいられない、男漁りに出掛けなきゃ」
こう声に出してみたが、気力が湧かない。
開け放した窓から下階の一家の幸せそうな笑い声が聞こえる。
暖炉のそばで温められた刺繍入りのスリッパを履く男は、彼女に新聞を読み聞かせてくれる男は、彼女と何でもない会話をしてくれる男はもういない。
彼女はふらりと窓から落ちた。

彼女の名前は「至福(フェリシテ)」。でも不幸だった。

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