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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【230】

425 :この名無しがすごい! :2021/11/25(木) 22:02:38.78 ID:S4S8k1h90.net
 ある夏の暑い日のことだった。
 ベランダで煙草を吸っていながら今日も暑くなりそうだと見上げていたら、空から女の子が落ちてきた。
「嘘だろ?」
 字面だけではありふれたボーイミーツガールのシーンのようだけれども、目の前にあるシーンは随分と違っていた。
 頭を下に、裸足の爪先は天に、不可思議な飛翔能力は彼女のどこにも感じられず、ただ重力のままに地上へと引っ張られていく。
 つまり、彼女は飛び降り自殺のまっ只中にいるのだ。
 一人の命が失われようとしている時に、優雅に実況解説している僕を不思議に思うかもしれない。
 この時の僕の脳みそはとんでもない過活動状態にあったのだ。
 生きてきた二十年間の中で、紛れもなく一番美しい女の子だったから。
 僕は一目惚れをしたのだ。
 放射状に舞った黒い艶やかな髪。陽光を受けて輝く白いワンピース。そしてこの世の全ての望みを絶たれた無垢な絶望の顔。
 触れるのもおこがましいほどの神聖な彼女に、僕は腕を伸ばした。
 彼女の深い瞳が徐々に近づいてくる。
 僕と彼女の視線が水平になったその瞬間、彼女も僕と同じ気持でいるのことを僕は悟った。落ちゆく時の中で、出会った二人は恋に堕ちたのだ。
 手すりに腹をのせもがくように腕を伸ばした。ようやく会えた運命の彼女。ここで離したりしたら、一体僕は何のために生まれてきたのか。
 そんな僕を彼女はただ静かに見つめていた。微笑みながら僕の腕を器用に外してみせる。
 赤いペディキュアの爪はあっけなく僕の腕の間をすり抜けていった。
 彼女と僕の交差が終わったその瞬間、世界は急にスピードを取り戻す。
 伸ばした僕の指の先で、彼女は一瞬で地面に咲く赤い花と成り果てた。
 僕を巻き添えにすまいと、最後の意志で彼女は己を犠牲にしたのだ。
 僕はよろめいて一二歩下がり、その光景から視線を外すと眩暈に襲われた。助けを呼ぶことも現場に駆けつけることもしなかった。サッシを開けて自室に戻り、力なくベッドの暗がりに潜り込む。
 どうしてこのタイミングの出会いなのかと、言っても仕方のない言葉を、何度も何度もシーツに浴びせ続けた。

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