ワイが文章をちょっと詳しく評価する！【223】

この名無しがすごい！

　昨今の「異世界」ブームの影響だろうか、近所に妙な店がオープンした。その名も『ビストロ　異世界』。以前は流行らない洋食屋があった場所だ。その洋食屋は半年前に潰れしばらく空き店舗になっていたが、いわれてみれば先月から業者が出入りをして内装工事をしていたのを思い出した。外観はまるでロールプレイングゲームに出てきそうな宿屋の風貌で、古材を利用した木組の壁や扉などが「それらしさ」を醸し出している。
　けれども、それだけを以って「妙な店」というわけではなかった。いわゆるコンセプトショップというやつで、店全体でコスプレをしているようなものだろう、という程度にしか思っていなかった。妙なのは店の壁に掛けられた黒板に書かれているメニューだ。
　例えば、今日のランチコースなど見てみる。

スライムのマリネ
大サソリのボイルオランデーズソース
トマトとフロマージュのサラダ
オーク肉のロースト
パン
デザート

となっている。食後のドリンク付きで、価格は１００Ｇと書かれてあり、ご丁寧に括弧書きで「支払いは円でも可」と添えられている。

　ここまで貫かれると、狂人の類なのか、はたまたメイド喫茶のように世界観を徹底しているつもりなのか判然としないが、広告を見たことも話題に上がったこともないところが少々不気味である。そもそもが「円でも可」なのはいいが、円ならばいくらという旨は一切書かれていない。まさか１００円というわけでもあるまい。

　などと考えていたものの、正直に言えば気になってはいた。子供のころに遊んだロールプレイングゲーム。その世界に住むモンスター達を料理したらどんな味になるのか、興味は起こった。特に「スライムのマリネ」に至っては想像すら及ばない。この店の場所は立地が悪いのか、オープンしては潰れ、またオープンしては潰れ、といった具合を繰り返している場所なので躊躇しているうちにまた潰れてしまうことも考えられる。事実、オープンからこの数日、客の出入りを見たことがない。フェイク食材によるレストランであったにしろ話のネタにはなるか、との思いが勝りとうとう「異世界」に旅立つ決意が固まったのである。