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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【212】

936 :不浄場に鎮座三郎DOPNESS/第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 23:02:52.66 ID:kY9Peerma.net
ワイ
 突然の出来事に立ち尽くす。
 玄関を開けると殺したはずの女がそこに立っていた。
 外では雨が降っていて、彼女はまるでその中を歩いてきて、雨宿りをしにきたみたいに、そこに立っていた。髪からは水滴が溢れ、濡れたワイシャツから肌が透けていた。なんとも言えない存在感がそこにはあった。生前の彼女から考えられないほどのリアリティが目の前の女にはあったのだ。
 頭の中は疑問符でいっぱいだ。殺し損ねたはずもない。首を絞めた感触はまだ僕の掌に残っている。動いていない心臓の音は鼓膜に焼き付いている。死体は重たく、雨の日を選んで埋めた。証拠もなく、彼女は行方不明として扱われた。だから、こうやって目の前にいるはずがなかった。
 双子の姉妹もいない。彼女は天涯孤独の身だった。つまり、彼女は生前から死んでいたも同然だった。違いがあるとすれば、生きているか、死んでいるか、それだけだった。
 僕は気を取り直して彼女に微笑み、部屋へと歓迎する。
「まぁ中に入れよ、ずっと待ってたんだ」
 彼女はにっこりと笑って、玄関へと足を踏み入れた。
「何か飲むだろ? 簡単なカクテルでもいいかな?」
 僕がそう聞くと、彼女は「いいわよ」と、一言だけ返した。

 僕らは机を囲み、グラスを手に取って乾杯する。適当に作った名もないカクテル、それを飲んで、注いで、二杯目を飲み、また注ぐ。
 話しているうちに僕らの距離は近づいていって、ついにはゼロへと至る。彼女の青白い肌は血が通っていないかのように冷たく、綺麗だった。
 肌に触れて、軽くくすぐると、彼女はまるで生きてるかのように声を上げる。首筋には赤くなった絞殺痕があり、それがタトゥーのように美しくて、そっと口付けをする。
 それからはいつもの流れだった。
 しれっとビデオカメラを設置して、僕は彼女へと覆い被さる。幽霊とは思えない生々しさが僕をさらに加速させる。
 裸になった彼女は僕に尋ねた。
「ねぇ、私は死にたかったんだと思う?」
「毎日言ってたよ、死にたいって」
「本当に死にたかったのかな」
「君はなんの抵抗もしなかった。あの時の表情を今でも覚えているよ」
「これだけははっきりわかるわ。あなたが殺してくれたから私は生きているの」
 僕が彼女に内没したまま、ゆっくりと首へと手を伸ばす。アルコールが入ってることもあり、体は熱く、興奮は覚めない。
「ほら、こんな風に……」
 細い首の、赤い跡の上に手を重ねる。ゆっくりと力を込めていく。彼女は静かに僕を眺めていて、あの時の繰り返しだと僕は思っていた。雨の音と、とても近くで鳴る水音だけが部屋に響いていた。
 いつのまにか行為は終わっていて、僕は彼女の中に欲を吐き出していて、彼女は事切れていた。僕の部屋の布団の上には、幽霊の死体が横たわっていて、そして、その中と上には生が撒き散らされている。相反する二つがこの部屋では共存していた。
 彼女は安らかに目を閉じていて、まるで寝ているように死んでいた。僕は二度死んだ彼女を横目に、グラスに残っていたカクテルを飲み干す。やはり、先ほどまでと同じ味がしていた。
 いつの間にか僕は寝ていて、朝が来ていた。布団に彼女の姿はなかったが、確かにそこにいたと言う痕跡だけがあった。机の上にグラスは二つあったし、残していった飲みかけは氷が溶けて、色が薄くなっていた。
 試しに回していたビデオを確認するも、暗闇しか映っていなく、うまく撮れていなかった。
 殺したはずの彼女が現れた。
 そのことについて疑問はたくさん残る。しかし、それは消えてしまった彼女の幽霊だけが知り得ることだ。だから、深く考えずに、窓を開けてタバコを吸う。雨が上がりの青い空に煙を吐いていると、灰が床に落ちた。
 一週間が経った。昨日から曇り空で、どうやら今日は雨が降るらしい。僕は帰りにスーパーに立ち寄ってお酒を買った。
 簡単なカクテルを作ろう。カクテルの名前はきっとこうだ。
「人殺しのカクテル」
 僕がそんなことを呟きながら、グラスを用意していると、チャイムがなった。外では雨が降っていた。玄関の扉を開けると、殺したはずの彼女が立っていた。
「まぁ、中に入れよ。ずっと待ってたんだ」
 そう言うと、彼女はうなづき、中へ入ってくる。
「何か飲むだろ? 簡単なカクテルでも良いかな?」
「いいわよ、私も飲みたくなったの。人殺しのカクテルを」
 僕しか知らない名前を彼女は何故か知っていた。僕は驚し、背筋を冷やす。だけれども、振り返ったりはしなかった。用意していたグラスにお酒を注いで、それに映った彼女の表情を覗き見る。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

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