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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【212】

880 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 00:18:28.36 ID:kh0EYaqA0.net
突然の出来事に立ち尽くす。
衝動的な行動をしているのにもかかわらず、空はどこまでも青く、太陽は眩しく、頬に触れる風はすがすがしい。
ここに来るのは初めてだ。
生まれて初めて見る素晴らしい景色に俺は息を飲む。
そして、新しい一歩を踏み出す。
「君がまた俺を見つめてくれるように、頑張るよ」
そう独りごちながら――。

「なあ、一緒に遊ぼうぜ」
教室の端にぽつんと一人でいることが多かった俺に、君は語りかけてきてくれた。
「え? 俺?」
最初は自分に話しかけてきているのかどうかも分からず、思わず聞き返してしまう。
それくらい、誰かが話しかけてきてくれるのが珍しかったのだ。
「お前しかいないだろー!」
君は笑いながら言った。

君は俺とよく二人でつるみ、よく話をした。
休日にも会うようになり、共に遊ぶ機会が増えた。
つまらなかった学校の生活が次第に楽しくなっていく。
学校に行けば君と会える。
他のつまらないことはどうでも良くなるくらい、魅力的なことだった。

しかし、いつのころからか君には新たな友達が増え、俺と二人で話す機会は減っていった。
「なあ、今話せる?」
俺から話しかけることが増えていった。
次第に、
「ごめん。今忙しくって」
君が断ることが増えていく。
そして、俺は絶望を覚えた。

友人など、親友など。もともとどうでもよかったはずだ。
しかし、一度楽しみを覚え絶頂を迎えると失うのが惜しくなる。
一人の時間を物足りないと感じ、取り戻したいと思えてくる。
俺は次第に失ったもの――君の俺に対する関心を取り返そうと考え始める。

そして、ある日。突然思い立ち行動に移した。
【今日の昼休憩の12:30に、教室の一番右の窓から外を見て。良いものを見せるから】
俺はそうメッセージを君のスマホに送った。
「良いもの」の内容はシンプルだ。
また俺を見てくれ。ただそれだけ。

空はどこまでも青く、太陽は眩しく、頬に触れる風はすがすがしい。
校舎の屋上から見上げる景色は初めて見るものだ。
冷静なもう一人の自分が突然の出来事に立ち尽くす。

しかしすぐに、我に戻ると俺は新しい一歩を踏み出した。
足先を空中に差し出し、体重をかける。
すぐに景色が反転した。
視界が逆さまになり、俺の体は地面に向かって落ちていく。

最後のその瞬間、確信することがあった。
……再び視線をくれた君の記憶に、俺はずっと残り続けるだろう。
一瞬だが永遠にも感じられるその時に見えた君の表情。
絶望とも驚愕とも恐怖の入り交じった表情。
間違いない。
俺のことを、君は一生忘れないだろう。ずっと思い出すことだろう。夢に見ることだろう。
俺はそう思いつつ意識を手放して。

薄っすらと笑みを浮かべていた。

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