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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【212】

1 :この名無しがすごい! :2021/02/23(火) 16:35:37.51 ID:6i6Jz5J40.net
オリジナルの文章を随時募集中!

点数の意味
10点〜39点 日本語に難がある!
40点〜59点 物語性のある読み物!
60点〜69点 書き慣れた頃に当たる壁!
70点〜79点 小説として読める!
80点〜89点 高い完成度を誇る!
90点〜99点 未知の領域!
満点は創作者が思い描く美しい夢!

評価依頼の文章はスレッドに直接、書き込んでもよい!
抜粋の文章は単体で意味のわかるものが望ましい!
長い文章の場合は読み易さの観点から三レスを上限とする!
それ以上の長文は別サイトのURLで受け付けている!

ここまでの最高得点77点!(`・ω・´)

前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【211】
https://itest.5ch.net/mevius/test/read.cgi/bookall/1613227425
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:: EXT was configured

786 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 19:34:35.62 ID:2bll36KW0.net
>>781
お前はお題を守ることだけが目的になってるだろ
目線が低すぎるんだよ

787 :シャム猫 :2021/03/03(水) 19:35:43.86 ID:wV1VG9LR0.net
>>785
そんなのを前もって聞くのではなくて、書いて試せばよいだけであろうに
君はこんなママゴト遊びに必死過ぎであろう

788 :シャム猫 :2021/03/03(水) 19:36:32.63 ID:wV1VG9LR0.net
>>786
いやいや、お題でやるなら、お題をちゃんと守るのが当たり前なのだが
それが、縛りプレイというものなので

789 :シャム猫 :2021/03/03(水) 19:37:31.58 ID:wV1VG9LR0.net
お題を守りたくないなら、好きにかいて、点数で高得点を目指すなりなんなりすれば良いだけのことであろうにな

790 :シャム猫 :2021/03/03(水) 19:38:18.16 ID:wV1VG9LR0.net
結局、アホの子は、アマチャンのワガママなお子ちゃま思考なのであろうな

791 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 19:38:28.73 ID:2bll36KW0.net
>必死過ぎであろう

朝からずっと喚き通しのお前ほどじゃない

792 :シャム猫 :2021/03/03(水) 19:39:19.56 ID:wV1VG9LR0.net
>>791
いやいや、どう見ても必死なのは、君であろう

793 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 19:39:31.09 ID:2bll36KW0.net
×朝からずっと喚き通し
〇何年もずっと喚き通し

794 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 19:40:00.15 ID:QMhu/7haF.net
ファミマからこんばんは。
あー。勢いよく進んでますねえ。
難易度の高低に言及ほど習熟してないので、コメントは避けます。
が、
『誰誰は……。』で区切って、お題につなげる構文は、普通に使いますね。
で、
『それとなく誰誰の顔に視線をはしらせる』
から、お題につなげるのも、使いますね。
(その前に不穏な展開が必須ですが)
あとは……うん。まあ人それぞれなのかな。
多分この構文で面白い物を書くというのが、今回のキモなのでしょう。
自分は今回、絶対にかぶるだろうネタで書くので、かぶってても面白い、
と言ってもらえるような物を書けるように、頑張ります。

795 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 19:48:25.60 ID:308347QW0.net
>>794
ワイがダメと言ったらダメだろ
俺の作品が失格になって書き直させられたんだぞ?
ワイがそうしたんだからダメなものはダメだ

796 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 19:58:04.47 ID:2bll36KW0.net
>>795
だから、句点があればいいんじゃないの? という質問ですだよ。

797 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/03(水) 20:03:54.01 ID:f8IdveQr0.net
>>785
失格にはならない!
ただし繋ぎ目が粗としてワイの目に見えれば減点対象となる!
お題は読むところからすでに勝負が始まっている!

超高難度設定の意図まで読めた作者が栄冠を手にする!(`・ω・´)ノシ

798 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 20:04:22.66 ID:2bll36KW0.net
単なる改行と文を分けるのは意味が違うから。
一般的に使われている表現まで否定する必要はないよね、というね。

799 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 20:05:33.67 ID:2bll36KW0.net
>>797
あざす!
ではそれで頑張ります!

800 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 20:17:59.34 ID:308347QW0.net
句点と改行って文章においてほとんど同じ意味なんだけど
わざわざ句読点を打っても二重に区切りがあることになって不自然なんだが

それよりもさ、ワイは働くの?
ついに施設行きなの?

今ネットカフェにいいるらしいね
このまま逃げられると思ってる?

801 :シャム猫 :2021/03/03(水) 20:24:15.46 ID:wV1VG9LR0.net
>>800
施設に行くような金も無さそうなので、ボロ家で野垂れ死にするのではないのか

802 :この名無しがすごい! :2021/03/03(水) 20:34:07.74 ID:308347QW0.net
いやニートできてるんだからカネはあったんだよ

ただこれ以上は支えられないだけだ
俺は知ってるよ

頑張れ施設に行ったら殺されるかもしれんけどそれでも行け
そして死ね

803 :シャム猫 :2021/03/03(水) 22:40:52.56 ID:wV1VG9LR0.net
ワイくんはニートではなくて、ただの底辺労働者であろう

804 :今夜は豚丼『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/04(木) 00:18:23.44 ID:rP/nnfH30.net
突然の出来事に立ち尽くす。
目の前の状況に理解が追い付かない。
自室のベッドで寝ていたはずの僕は、気が付くと学校の教室のような部屋にいた。
自分が通う学校のものと似ているような気がする。というか、自分のクラスの教室そのものだ。
時間は分からないが、とにかく夜らしい。暗い室内に、月の光が僅かに差し込んでいる。
そんな、自分がいるはずのない場所で見たものは──少女の死体だった。
制服に身を包んだ少女が、赤黒い血溜まりの上で横たわっている。
「──ひっ」
思わず後ずさりする。近くの机にぶつかって、少しよろけた。
──何なんだ、この状況は。
夢にしたって生々しいにもほどがある。
どうか早く醒めてくれ──そう思って頬をつねろうとすると、自分の右手が何かを固く握りしめていることに気づいた。
恐る恐る目を凝らす。
次第に暗闇に目が慣れて、何となく外形が分かるようになる。
角度を変えていると、暗闇の中で一筋の光が走った。
そして反射的に、その正体が分かってしまった。
「──あ、あああ」
ソレが手から滑り落ち、カランカランと床を何度か跳ねた後、窓際までたどり着く。
月明かりに晒されて、色もハッキリと分かるようになる。
僕が握っていたのは、たっぷりと血の付いたナイフだったのだ。
──何だよこれ。こんなの、僕が殺したみたいじゃないか。
呆然としながら、血溜まりの上で動かない少女に目をやる。
髪は、月の光に透けそうな黒い長髪。顔立ちは整っている。
そして、子どものような髪留めを付けていて──
「────あ」
そこでようやく気付いた。
自分はこの少女を知っている、と。
同じ高校、同じクラスの優等生。僕が片思いをしている相手だ。
いつも天真爛漫で、クラスの中心にいた彼女。
嫌味が無く人当たりの良い性格で、皆に好かれていた。
当然想いを寄せる男子もたくさんいて、僕ももれなくその一員だった。
ライバルは多いけど、高校卒業までに何とか告白ぐらいは、と考えていたのだ。
その彼女が。
物言わぬ死体となって目の前で横たわっている。
どうしてこうなっているのかは分からない。
だが、何が起こっているのか、否が応でも理解させられた。
次いで吐き気がこみ上げてくる。
たまらず、逃げるように教室を出て駆け出した。
自分たちの教室の近くにはトイレがある。
女子トイレだが、こんな状況では構っていられない。
急いで駆け込んで、洗面台に胃の中のものをぶちまけた。
「うぇぇ────はあっ、はあっ」
あらかた出し終わると、少し呼吸を整える。
だが、落ち着こうにも落ち着けない。
人が死んでいるのだ。それも、よく知っている人間が。
顔を洗って、鏡を見上げる。
今の自分はどんな顔をしているのだろう。
好きな人の死体を見たのだ。相当酷い顔をしているにちがいない。
そう思いながら顔を上げたのだが──鏡に映った僕の表情は、予想外のもので。

薄っすらと笑みを浮かべていた。

805 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 02:43:34.77 ID:txQuehyB0.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

>742
>743
>747
>758
>759
>760
>804

只今、七作品!(`・ω・´)二度寝しなければ!

806 :『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/04(木) 03:34:28.17 ID:5T4MhjNY0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
「ユキ?」
  外回り中、昼飯でも食べようと飲食店を探していた視線の先で、見知らぬ男と仲睦まじそうに寄り添い歩く女。それは間違いなく一年目の結婚記念日を間近に控えた妻、ユキに他ならなかった。

「どしたんすかー先輩、いきなり相談に乗ってほしいから呑みに行こうなんて。ユキと喧嘩でもしたんすか? なんて、アツアツのお二人には関係ないっすね」
「いやまぁ喧嘩とかじゃないが、ユキの事なんだ」
 あの場面を目撃してから三日後、居酒屋で落ち合った女性は高校時代からのユキの友人で、俺の後輩でもあるヨーコ。
 限りなく黒に近いだろうユキだったが、彼女にべた惚れで捨てられたら生きていけぬとまで思っている俺に問い詰める勇気は無い。
「浮気しているかもしれないんだ……ユキ」
『まさか! ユキに限ってそれはあり得ないっすよ、先輩の勘違いっす』
 きっとそんな風に言ってくれるに違いない。例え気休めでも、ヨーコの口から言われれば多少は気が楽になるかもしれない、本当に勘違いかもしれないし、あの男はユキの親戚で――
 ヨーコ? 何故黙っているんだ? 何故そんな罪悪感の籠った瞳で見つめてくるんだ? 何か知っているの……か?
「あちゃー、治まってなかったのかぁ……というかてっきり先輩は知ってるものだと」
「どういう事だ? 治まってないってのは一体!」
「先輩落ち着いて、人が見てます」
「あっ……すまない」
「詳しく教えて下さい」
 男と歩くユキを見た話を聞いたヨーコが、ふむむと考え込み始める。
 少しだけ震える指先で煙草に火を点けた俺は、頭の中の悪い考えを一緒に吐き出す様に息をつく。
「確か二人の結婚記念日は明後日でしたよね」
「ああ」
「成程、そういう事か……、先輩って酔うと良く記憶無くしますよね?」
「ん? まぁそこまで酔う事はあまり無いが、そうだな」
「付き合う前に三人で呑みに行った時、覚えてます?」
「……覚えてない」
「先輩って酔うと本音が出るタイプみたいですよ? とりあえず先輩の心配してる事はあり得ないと思うんで、明後日を愉しみに……って感じっす」
 一体何を言ってるんだ? 解らない……でもヨーコがそうまで言うなら、本当に大丈夫なのかもしれない。

 そして記念日の当日。
 休みを合わせて連休を取った初日、起きた俺の隣にユキは居なかった。
 食卓の上にUSBメモリとメモを残して部屋から消えたユキ。そのメモにはこうあった。
『まー君へ。この動画は一年目の記念日のサプライズです。日付が変わる頃に帰ります、愉しんでくれると嬉しいな。ユキ』
 手が震えて何度も取り落としてしまう度に、自分を罵りながらPCにメモリを差し込む。中には動画データが一つだけ。それをクリックした俺の目に、衝撃的な映像が映し出される。

 雪の様に白い柔肉を貪る、醜怪な無数の大蛇――
 まるで、蟲毒の壺に放り込まれたリスが無惨に嬲られ喰われていく様なその映像に、俺の頭の中が真っ白になって理解を拒む。
「あ、あ、……あああああ!!」
 大きなベッドの上で、見慣れた白い肌の女体に幾人もの男達が群がる光景。一体何人いるんだ……三人とか五人じゃない。ベッドの周りにも……数えきれない。
 やめてくれ……俺の妻なんだ……そんな大人数でなんて壊れてしまう……ユキが死んでしまう。
 鎌首を擡げた一際巨大な大蛇が、淡い茂みに隠されたクレヴァスを無惨に暴いて侵入していく。あんなに張り裂けそうに……嘘だろ……大きすぎる! 裂けてしまう!
 今にもユキの悲痛な絶叫が、限界まで身を捩り軋むカラダの音が、下卑た男達の嗤いが聞こえてきそうな映像に呆然としていた俺だったが、実際には無音のままだ。恐る恐るヘッドホンを着けて音量パネルを開き、愛する妻の苦痛に染まった絶叫を聞く覚悟を決めてボリュームを上げた。
 途端、俺の脳に桃色に染まりきった女の嬌声が飛び込んでくる。
 卑猥な言葉と共に精を乞い、凌辱を願う女の快楽に満ちた叫び。
 それは間違いなく、苦痛や拒絶などでは無い。ただ只管に貪欲に、性を貪るだけのメスと化した愛妻の喘ぎであった。

 真夜中まで映像のリプレイを繰り返していた俺の耳にチャイムの音が聞こえてくる。
 玄関を開け、俺を見つめるユキを無言で寝室に連れて行き、着ていたコートを剥ぎ取る。
 幾匹もの毒蛇に絞めつけられた様な縄の痕、歯形と指痕に塗れた双丘、マジックで描かれたと思しき猥雑な落書き、秘裂を割り拡げる様に抉り込まれた巨大な二つの張型。
 視線を上げて愛しい女の顔を見る。
 淫らにぬめり輝く射干玉の瞳には何処までも昏く果てしない深淵と、一人の男の顔が映り――
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

807 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 03:49:36.38 ID:txQuehyB0.net
>一人の男の顔が映り――
> 薄っすらと笑みを浮かべていた。

「――」の末尾に句点を付けない方法がある!
繋がっていないように見えるが、失格となった作者の作品に酷似している!
公平性を重視して今回のワイスレ杯に限り、失格とする!(`・ω・´)書き直して再度、投稿する行為は認める!

808 :『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/04(木) 04:38:21.86 ID:gsmhg7jh0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 あるべきものが忽然と姿を消していた時、人はこんな反応をするのか、などと他人事のように考えてしまう。
 他人事で済む話ではないのに、目の前の絶望を目の当たりにしても、まるで現実味が湧いてこない。
 現実逃避だった。
 膝から崩れそうになるのを壁に寄りかかり耐えながら、この凄惨な状況について考えてみる。アームチェア・ディテクティブならぬ、アームオンザウォール・ディテクティブだ。……そんなものはない。
 気を抜くとまた意識を別のところにやりそうなので、惨たらしい事件現場をしっかりと目に焼き付けて、推理を開始する。

 まず5W1Hをハッキリとさせよう。

 一つめ、誰がやったか?
 部外者ではないことは確かだ。この家のこの場所を自由に出入りできるのは家族だけである。容疑者は父・母・妹の三人に絞られる。
 二つめ、いつやったか?
 昨日の夜には無事だったことを私の目で確認している。よって、犯行は昨日の夜から今朝にかけて。今から数分前に犯行が及んだ可能性も否定できない。
 三つめ、どこでやったか?
 ここで。と言ってしまうのは浅慮というもの。持ち出した場所というのであれば、ここで間違いはない。だが持ち出すだけでは意味がないのだ。次の犯行が必ず実行されていて、証拠が残るとすれば、その第二現場となる。
 四つめ、なにをやったか?
 窃盗だ。犯人は私の大切なものを盗んだ。それから、第二現場で行なわれる犯行は、ええと……器物損壊? とか。とにかく、恐ろしい行為が行なわれる。
 五つめ、なぜやったか?
 私は家族の誰からも恨みを買うようなことはしていないはずだ。よって、私への嫌がらせという線は消える。となれば、欲に目が眩んだ者の犯行と言える。仮に犯人を特定したとして、二言目には『あなたのものだとは思わなかった』なんてセリフが出てくるかもしれない。推理が終わり次第、迅速に動く必要がある。もう少しだ。
 最後の六つめ、どのようにやったか?
 手を伸ばして掴む。そしてUターンしたのちに自室へと駆け込む。そんなところだろう。私と遭遇する可能性を限りなく少なくする為に、事はスピーディに進めたはずだ。

 ところで、私がここに到着する前に、ドタドタと廊下を駆ける音を聞いていた。私が知る限り、このおんぼろな家を考えなしに駆け回れるのは妹しかいない。

 私は忍び足で妹の部屋まで近づき、一気に扉を開けた。
「たのもーっ!」
「うわっ……な、なに? お姉ちゃん」
 すでに座っていただろうに、さらに腰を抜かしたような体勢になる妹。この慌てぶりからして、実にあやしい。現行犯は抑えられなかったが、急襲して正解だった。
「妹。我が妹よ。その可愛らしい口についているものは、なにかな」
「えっ……ええ!? プリンのこと? そんな、きれいに拭いたのに」
 妹はハンカチを取り出すと、急いで口を拭った。私がカマをかけたとも知らずに。
「きさまをプリン窃盗の容疑で逮捕する!」
「ぎゃああーーっ」
 もはや自供に等しかったので、妹に腕ひしぎ十字固めをお見舞いする。
「痛い痛い! べんごしー! べんごし呼んでー!」
「そんなものはないっ」
 姉として、妹を更生させてやらなければならない。個人的な感情ではない、これ愛の鞭なのだ。
「うりうりうり」
「いたたた! ギブー! ギブだよお姉ちゃん!」

 そうしてプリンの重みを妹に分からせていると、廊下から足音が聞こえてきた。ドタドタと騒がしく、ついさっき聞いた足音そのものだった。
 ……おかしい。足音の犯人はここで拘束しているのに。
 足音は何度か行ったり来たりしたあと、この部屋の前で止まった。
 そして、扉が開く。
「はぁ、はぁ、ここにいたのね」
 買い物袋をもった母だった。
「お母さん……?」
 母は肩で息をしていて、顔が紅潮している。
 さらに、口元には何かの食べかすがついていて。
「プリン、買ってきたから、食べよ?」
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

809 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 04:51:35.77 ID:txQuehyB0.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

>742
>743
>747
>758
>759
>760
>804
>808

只今、八作品!(`・ω・´)

810 :この名無しがすごい! :2021/03/04(木) 17:58:28.38 ID:fbJ78uK+0.net
>>808脱字しちゃった
下から15行目
これ愛の鞭なのだ。→これは愛の鞭なのだ。
ツッコまれる前に

811 :シャム猫 :2021/03/04(木) 18:02:51.31 ID:e7dSbTg6F.net
平日の午前3時や午前4時にこんなママゴト杯の作文を必死で投稿するとか、やはり、ここはネカフェ生活者のガイジな暇人オッサンワナビーの集まりではないのか

812 :シャム猫 :2021/03/04(木) 18:04:43.78 ID:e7dSbTg6F.net
ローソンは、ロソーンか、なるほど
ならセブンはセブーンかもであるな

813 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 19:16:06.71 ID:txQuehyB0.net
今日は作品が投稿されそうな気配がないので呑むとしよう!

書斎と台所が離れているので投稿されても気付かないかも、
と伏線を張っておく! これで心置きなく呑める!(`・ω・´)修正しないのだろうか!

814 :シャム猫 :2021/03/04(木) 19:28:10.84 ID:Z5pfn63d0.net
ワイくんはノートパソコンしかなくて、それを家中持ち歩いているはずであるのにまたそんなおかしな設定を付け足したのか、やれやれであるな

815 :シャム猫 :2021/03/04(木) 19:29:49.73 ID:Z5pfn63d0.net
しかも、台所だとか、昭和の爺丸出しであろう
今時は、皆がキッチンと言うであろう

816 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 19:41:39.17 ID:txQuehyB0.net
家自慢になるので反論はしない!
豪壮な日本建築の建物にキッチンは似合わない!
台所や炊事場の方がしっくりくる!

筆を折って久しい者に語っても意味はない!(`・ω・´)ノシ ばいびー!

817 :シャム猫 :2021/03/04(木) 19:48:21.16 ID:Z5pfn63d0.net
ただの山奥の過疎地のボロ家を無償で借りているだけの山奥ニートのワイくんがまた虚言を吐いているのか、やれやれであるな

818 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/04(木) 20:57:35.20 ID:JMchL5b8p.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 状況を素早く理解しなければ。
 いや、それより一刻も早くここを立ち去るべきだ。
 三月の澄んだ夜空。立ちのぼる湯けむり。全裸の俺。
 そして、脱衣所の方から聞こえてくる……女の声。
 誤って女の露天風呂に入るなんて、俺はとんだ間抜け者だ。
 もっとちゃんと入り口で確認していれば、こんな事にはならなかった。
 先客がいなくて貸し切り同然だ、とつい浮かれてしまった事が油断に繋がったのだ。
 頭を抱えてうなだれる。手には心許ない手ぬぐい一枚だけ。
 目の前にあるのは、広々とした露天風呂。
 前にも後ろにも逃げ場はない。
 俺は露天風呂の真ん中で膝から下、湯に浸かったまま動けないでいる。
 くそ、どうすれば。
 と無駄に考えている間に、二人の女が湯船に近づいてくる。
 隠れるスペースなんてある訳なかった。
 相手が気づいて、こっちを見る。もろに目があった。
「きゃー、男がいるわっ」
「ち、違うんだ。待ってくれ、訳を……」
「やだ……気持ち悪いっ、近寄らないで!」
「頼む……!」
 誤解だ、と言う前に俺は、女から顔面を拳で殴打されていた。
 ザッパーン!!
 思い切り後ろに吹っ飛ばされ、俺はそのまま沈み、挙句に湯船の底で後頭部を強打し、意識が途絶えた。
 気づいた時には、脱衣所だった。
 そばには風呂屋の店主がいて、仰向けの俺を険しい顔つきで見下ろしている。
 気絶した俺を湯船から抱え出し、パンツを履かせたのは店主のようだ。
「女の露天風呂に入るなんて変態野郎が」
「勘違いだっ、話を聞いてくれ!」
「五月蝿いっ」
「そんな……本当に悪意はなかったんだよ」
 決して意図した事ではなかったのに、まるで犯罪者扱い。
 ひどい仕打ちだ。
 いくら独身でハゲで中年太りしてるからって、見た目で判断するのは如何なものか。
 折角の一人旅だと言うのに、これじゃあ思い出もクソもない。
 別に若い女の体を見ようとした訳ではなかった。ただ少しだけ視界に入っただけだ。
 俺は三次元の女よりも、二次元の女を愛すると決めた。もう随分と前に。
 いや、そんな事を考えている場合じゃない。
 そうこうしてる間に、耳を塞ぎたくなるようなサイレンの音が響いてくる。
 数分後、正義感溢れる若い警察官が脱衣所にやってきた。
 さしずめ店主が通報したのだろう。
 警察官は挙動不審の俺の姿を見つけるや否や、見下した表情で言った。
「事情は詳しく聞いた。あんた良い歳して恥ずかしいと思わないのか?」
「だから、そういう気はさらさらなくてですね」
「被害者の話を聞いたら、そういう気満々としか思えん。取り敢えず詳しい話は署で」
「そんな勘弁して下さい。俺は悪くないんです!」
 そうだ。俺は悪くない。ただ本当に間違って女湯に入った。
 そして、後から入ってきた若い女と鉢合わせてしまっただけで。
 なんでそれだけで変態扱いされるんだ。おかしい。何故だ。何処に落ち度がある。よく考えろ。
 ……あぁ、そう言えば。
 裸の女が近づいてきて、向こうがこっちに気づく前、俺は相手の顔を見て、ふと思ったな。
 俺の愛する魔法少女センチメンタルの霧崎ライムちゃんにちょっと似てるって。
 そしたら、ライムちゃんの限定フィギュアを一昨日ゲットした事を思い出して、再び喜びが込み上げてきて、帰ったら存分に愛でてやろうと思って……。
 それだけのはず。
 帰る楽しみが出来たってだけの事。
 女と目が合った時も、ライムちゃんの事しか考えていなかった。女に手を出そうとしたり、何か卑猥な事を言ったりもしてない。ただ純粋にライムちゃんの事で頭の中がいっぱいだっただけで。
 いや、待てよ。あぁ、違う。大事な事を忘れていた。
 ……なるほど。確かに。それなら合点がいく。ふむふむそうか。
 間違いない。ライムちゃんに想いを馳せていた俺は多分、女と目が合ったあの時。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

819 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 21:26:43.18 ID:txQuehyB0.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

>742
>743
>747
>758
>759
>760
>804
>808
>818

只今、九作品!(`・ω・´)トイレに立ったついでに見てよかった!

820 :この名無しがすごい! :2021/03/04(木) 21:55:17.27 ID:rP/nnfH30.net
ワイくん家は書斎あるのか、羨ましいぞ……

821 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/04(木) 22:08:00.29 ID:ADyqi7EL0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 街に突風が吹き荒れ、目の前を歩いていた女性のスカートが大きく捲れ上がった。
 舞台の幕が上がるように、長い黒髪と共につむじ風に踊るグレーのフレア。その奥から登場した、黒のストッキングに包まれた長い脚。膝上からわずかに顔を覗かせる太腿の白い肌。
 そしてモノトーンの背景の中にただ一つ色彩を顕にする、水色のショーツ。僕はその鮮烈なコントラストに、目を奪われた。
 だが僕が立ちすくんだのは、そのせいではない。その直後、慌ててスカートを抑えた女性が振り返りジロリと僕を睨みつけてきた、その眼を見てしまったからだ。
 彼女は僕と視線が合うと、その瞳に更なる怒りと蔑みを込め、それからプイっと前を向いて足早に去って行った。
 別に僕が悪い訳じゃないのに、なんて理不尽な。とは思わなかった。僕の脳裏にはただ、水色のショーツと蔑むように睨みつけてきた彼女の視線だけが、はっきりと焼き付いていた。
 そう、僕は一目惚れしてしまったのだ。
 それからの僕は、木枯らしの吹きすさぶ冬の街を毎日のように彷徨い歩いた。彼女に会いたい、そしてあのシーンをもう一度……。いや、そこまで妄想を膨らませた訳ではないが、でも僕には確信があった。彼女こそきっと、運命の人だと。
 そして一か月が過ぎ、僕は再び彼女と出会った。
 長い黒髪と、先日と同じような、でも今日は薄茶のフレアスカート。人ごみの中にその後ろ姿を見つけて、僕は思わず駆け出した。
 その時、再び突風が吹き荒れ、彼女のスカートを巻き上げた。
「あっ」と僕が声を上げるのと、彼女が後ろを抑えながら振り返るのが同時だった。
 ジロリと睨みつけて来るその視線は、記憶の中にあったものと同じ。そして水色のショーツも。僕は動悸が速くなるのを感じながら、彼女に声をかけた。
「あの……」
「何ですか?」
 冷たい声。僕のことなんか憶えてもいないのだろう。
「先日はどうも。今も……あの……」
 途端に、彼女が大きく眼を見開いた。僕を思い出したのだ。
「何なんですか、あなた。偶然とはいえ、ちょっと気持ち悪いですよ」
「いえ、偶然じゃないんです。ずっと貴女を探していました。貴女のことが忘れられなくて」
「ストーカー? やめて下さい、本当に気持ち悪い」
「ごめんなさい。でも、真剣なんです」
 嘘じゃない。僕は真剣に彼女を求め、そして彼女にとっても僕こそが運命の人であるはずなのだ。それを確かめるために、僕は言葉を発した。
「えっと、あの……」
「何ですか、言いたいことがあるならはっきり言って下さい」
「水色がお好きなんですね」
 彼女の顔色が変わった。
「ああああ、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 鳥肌が立つ!
 本当に何なんですかあなた、何言ってるんですか! その変な眼付きもやめて下さい! 豚みたいな体して、さっきから何をハアハアと息荒くしてんですか!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃないですよ! 早く消えて下さい、死んでください!」
「ごめんなさい、ごめんなさい。あ、でも僕も黒のストッキングは好きです」
「ふざけんな! もっと真剣に謝れ! ほんと最低! あんたなんか生きてる価値あるの?! このみっともない豚! ウジ虫! 踏みつぶしてあげるからそこにケツ出せ!」
「有難うございます、有難うございます」
 僕はひたすら頭を下げながら、怒りと侮蔑に唇を震わせ罵声を浴びせかけてくる彼女の顔を、チラリと盗み見た。
 ああこれだ、間違いない。僕達はやっと出会うことができたんだ。
「ゴミ! クソ虫! 包茎野郎!」
 道路に這いつくばり頭上から降りそそぐ罵倒の嵐に身を震わせながら、僕は喜びに頬が緩むのを止められなかった。
 そして街中で人目もはばからず、大の男を踏み付けにして口汚くののしり続ける彼女の顔もまた、僕と同じ。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

822 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/04(木) 22:16:54.16 ID:652CrFRtF.net
突然の出来事に立ち尽くす。
生きていれば誰もが遭遇するこの事態には、内容も衝撃も人それぞれだと思う。けれど、僕が体験したあの事態は普通の人のそれとは次元が違った。

その日の空は秋に澄んでいた。僕は表参道の欅に背を預けながら、当時婚約していた彼女と国際通話をしていた。
この時、僕は彼女から婚約破棄を告げられていた。その前触れは皆無だった。同棲生活も4年を過ぎてたし、保険プランの優遇を口実に結婚を提案してきたのは彼女だった。
結婚式場の予約済みで、指輪だって不備はなかった。
さらに港区のタワーマンションだって現金一括で購入していた。お互いが貯金の8割をはたいた。全てが順調で過不足がなかったはずだ。絆は人生レベルで強固だった。
けれどそれは、彼女の出張先の海外の街で待ち受けていた、落とし穴のような恋に呑み込まれてしまった。

これが晴天の霹靂か。確かに今日は晴れている、と思いながら、涙を堪えている僕に、彼女は「全部、あなたで処分して」とそっけなく言った。そうして通話は切れた。
「捨てないとなあ」僕は自分の婚約指輪に視線を落としながら、目を細めた。ダイヤモンドはいつもよりも眩しく見えた。鼻の奥が熱くて、痛い。
胸に敗北と陰鬱を抱えたまま、タワーマンションに帰宅。ドアを開けかけた時、室内の闇の向こうに、人の気配を感じた。
泥棒? という疑問は瞬く間に怒りに変化。泥棒を怒鳴りつけ、死闘を演じたくなった。
照明スイッチを押すと、闇の空間が白く弾けて……僕は突然の出来事に立ち尽くした。
黒髪の少女が立っていた。戴いたカチューシャには宝石が星のように散らばっていた。
が、それらの輝きよりも、少女の奥まった瞳に宿る独特な光の方が印象的で、どこか既視感があったが、思い出せない。
真紅のドレスの胸元は、大きくVの形に開いていた。そのウエストは高く、全体に金糸で薔薇の刺繍が施されていた。まるで中世の映画の貴族だ。
「……仮装大会?」
長い対峙の後に僕がそうつぶやくと同時に、少女は小さく叫んで、飛び上がった。牧草の匂いが漂ってきて、僕の鼻をついた。

その後、色々な試行錯誤と悪戦苦闘の末に、彼女の名前がリザだと分かった。リザは14歳で、出身はイタリアのフィレンツェ。
婚約者と喧嘩をして、彼の頬をひっぱたいてしまって納屋に駆け込んだ末に……。この部屋に迷い込んでしまったそうだ。
うん。信じがたい。しかも、婚約者は28歳の絹商人で、2回妻と死別した男やもめだという。
前妻との間に1歳の子どもがいて、彼女には不安な未来が待ち受けているそうだ。全て不可思議だが、僕はリザの言葉を信じた。
だって、OKグーグルが翻訳に苦労する訛りの強いトスカーナ語をあやつる少女は、アメリカの存在を知らなかったから。
その他、水道、電化製品、自動車といったあらゆる品が、リザにとっては未知の機構で奇蹟だったから。
極めつけは……専門店で鑑定してもらったら、リザの宝石は本物だったから。

僕達は1か月の期間を共に過ごした。リザに散々振り回される日々の中で、僕は元婚約者の事を忘れた。
その事実に気づいたのは、遠出した先で、リザと2人で、夕に染まる田園を眺めていた時だった。
「夕の雲は赤いですね。まるで血のようです」「うん」「故郷の空も、同じ色でした」
リザはこちらを見上げ、その黒い瞳で、僕をじっと強く見上げた。
「あなたがいなかったら、思い出すのは、もっと遅かったと思います」
返事を考えあぐねていると、リザの輪郭がぼやけ始めて、そして、田園に溶けるように、消えてしまった。
それからちょうど1週間後の日曜日。僕は上野の美術館を訪れた。リザの時代の、血のように赤い雲が描かれている絵を、フレスコ画を期待したからだった。
が、期待は予想外の方向に裏切られた。強化ガラスの向こうに……。リザがいたからだ。涙腺の崩壊する僕の視線の先には、レオナルドダヴィンチの作品があった。
額縁の中で、成人をしたリザが、微笑みを浮かべていた。

モナ・リザ。モナは『ma donna』の省略。意味は、私の貴婦人。

翌日、僕は銀座の画廊で、モナ・リザの原寸大のレプリカを購入。以来、夕方に在宅している時は、陽が沈むまで、その絵画を眺めるのが習慣となっている。
室内を闇が完全に満たしたと分かる時、僕は一度目を閉じる。そうして、あの頃のリザを瞼の裏に浮かべる。そうすると、まるで祈るもののように、自分の頭が自然と垂れるのが分かる。
何を僕は祈るのだろう? リザとの再会? 向こうでの彼女の幸福? 分からないままに、顔を上げて、照明を点灯する。
このルーチンにそって、今日も額縁の中の絵を見る。モナ、愛する貴婦人という通称で崇められるリザがいた。
薄っすらと笑みを浮かべていた。

823 :シャム猫 :2021/03/04(木) 22:18:36.95 ID:Z5pfn63d0.net
>>820
ワイくんは本をまるで読まないので、書斎などがあるはずもないであろうに

824 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/04(木) 22:18:59.44 ID:652CrFRtF.net
突然の出来事に立ち尽くす。
生きていれば誰もが遭遇するこの事態は、内容も衝撃も人それぞれだと思う。けれど、僕が体験したあの事態は普通の人のそれとは次元が違った。

その日の空は秋に澄んでいた。僕は表参道の欅に背を預けながら、当時婚約していた彼女と国際通話をしていた。
この時、僕は彼女から婚約破棄を告げられていた。その前触れは皆無だった。同棲生活も4年を過ぎてたし、保険プランの優遇を口実に結婚を提案してきたのは彼女だった。
結婚式場の予約済みで、指輪だって不備はなかった。
さらに港区のタワーマンションだって現金一括で購入していた。お互いが貯金の8割をはたいた。全てが順調で過不足がなかったはずだ。絆は人生レベルで強固だった。
けれどそれは、彼女の出張先の海外の街で待ち受けていた、落とし穴のような恋に呑み込まれてしまった。

これが晴天の霹靂か。確かに今日は晴れている、と思いながら、涙を堪えている僕に、彼女は「全部、あなたで処分して」とそっけなく言った。そうして通話は切れた。
「捨てないとなあ」僕は自分の婚約指輪に視線を落としながら、目を細めた。ダイヤモンドはいつもよりも眩しく見えた。鼻の奥が熱くて、痛い。
胸に敗北と陰鬱を抱えたまま、タワーマンションに帰宅。ドアを開けかけた時、室内の闇の向こうに、人の気配を感じた。
泥棒? という疑問は瞬く間に怒りに変化。泥棒を怒鳴りつけ、死闘を演じたくなった。
照明スイッチを押すと、闇の空間が白く弾けて……僕は突然の出来事に立ち尽くした。
黒髪の少女が立っていた。戴いたカチューシャには宝石が星のように散らばっていた。
が、それらの輝きよりも、少女の奥まった瞳に宿る独特な光の方が印象的で、どこか既視感があったが、思い出せない。
真紅のドレスの胸元は、大きくVの形に開いていた。そのウエストは高く、全体に金糸で薔薇の刺繍が施されていた。まるで中世の映画の貴族だ。
「……仮装大会?」
長い対峙の後に僕がそうつぶやくと同時に、少女は小さく叫んで、飛び上がった。牧草の匂いが漂ってきて、僕の鼻をついた。

その後、色々な試行錯誤と悪戦苦闘の末に、彼女の名前がリザだと分かった。リザは14歳で、出身はイタリアのフィレンツェ。
婚約者と喧嘩をして、彼の頬をひっぱたいてしまって納屋に駆け込んだ末に……。この部屋に迷い込んでしまったそうだ。
うん。信じがたい。しかも、婚約者は28歳の絹商人で、2回妻と死別した男やもめだという。
前妻との間に1歳の子どもがいて、彼女には不安な未来が待ち受けているそうだ。全て不可思議だが、僕はリザの言葉を信じた。
だって、OKグーグルが翻訳に苦労する訛りの強いトスカーナ語をあやつる少女は、アメリカの存在を知らなかったから。
その他、水道、電化製品、自動車といったあらゆる品が、リザにとっては未知の機構で奇蹟だったから。
極めつけは……専門店で鑑定してもらったら、リザの宝石は本物だったから。

僕達は1か月の期間を共に過ごした。リザに散々振り回される日々の中で、僕は元婚約者の事を忘れた。
その事実に気づいたのは、遠出した先で、リザと2人で、夕に染まる田園を眺めていた時だった。
「夕の雲は赤いですね。まるで血のようです」「うん」「故郷の空も、同じ色でした」
リザはこちらを見上げ、その黒い瞳で、僕をじっと強く見つめた。
「あなたがいなかったら、思い出すのは、もっと遅かったと思います」
返事を考えあぐねていると、リザの輪郭がぼやけ始めて、そして、田園に溶けるように、消えてしまった。
それからちょうど1週間後の日曜日。僕は上野の美術館を訪れた。リザの時代の、血のように赤い雲が描かれている絵を、フレスコ画を期待したからだった。
が、期待は予想外の方向に裏切られた。強化ガラスの向こうに……。リザがいたからだ。涙腺の崩壊する僕の視線の先には、レオナルドダヴィンチの作品があった。
額縁の中で、成人をしたリザが、微笑みを浮かべていた。

モナ・リザ。モナは『ma donna』の省略。意味は、私の貴婦人。

翌日、僕は銀座の画廊で、モナ・リザの原寸大のレプリカを購入。以来、夕方に在宅している時は、陽が沈むまで、その絵画を眺めるのが習慣となっている。
室内を闇が完全に満たしたと分かる時、僕は一度目を閉じる。そうして、あの頃のリザを瞼の裏に浮かべる。そうすると、まるで祈るもののように、自分の頭が自然と垂れるのが分かる。
何を僕は祈るのだろう? リザとの再会? 向こうでの彼女の幸福? 分からないままに、顔を上げて、照明を点灯する。
このルーチンにそって、今日も額縁の中の絵を見る。モナ、愛する貴婦人という通称で崇められるリザがいた。
薄っすらと笑みを浮かべていた。

825 :この名無しがすごい! :2021/03/04(木) 22:21:16.02 ID:652CrFRtF.net
>>823
>>824に訂正します。いやあ、焦った。でもとりあえず参加作品を投稿できて良かった。楽しんでもらえたら幸いです。

826 :シャム猫 :2021/03/04(木) 22:22:46.69 ID:Z5pfn63d0.net
卑屈なテシガイジくんは、わざわざファミマで作文を投稿しているのか、やれやれであるな
家のネット料金も払えないのでそうなったわけか、なるほど

827 :シャム猫 :2021/03/04(木) 22:24:22.68 ID:Z5pfn63d0.net
平日の夜の十時にわざわざファミマに行って、ドヘタクソな作文を投稿するとか、まさに滑稽過ぎるオッサンの姿であるわな

828 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/04(木) 22:37:14.33 ID:txQuehyB0.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

>742
>743
>747
>758
>759
>760
>804
>808
>818
>821
>824

只今、十一作品!(`・ω・´)

829 :美世だが :2021/03/04(木) 22:50:10.15 ID:1dTNK1+20.net
はいおっちゃんでーす
今回のワイスレ杯参加できそうにない
なんか今作に気持ちが移ってるから
今は熾烈な争いの只中
ハーフタイムショーにでもなるかな
そんなん邪魔って話もあるけど漫談します
俺の大学時代の友達さ、スーパーマンなんだよ
どれぐらいスーパーマンかというとまず博識
博識っつっても世の中そんなやついっぱいいるだろ?
だがヤツは一味違うんだ
誰も知らない事を知っている
どんな知識だって?
地底人の出入口を知ってるwwwwww
ちょwwwww
視覚外からの攻撃wwww
すげえwwww
そもそも出入りしてんのかwwwww
そんでさ、それどこだって聞いたんだよ
そしたらなんて言ったと思う?
天下茶屋の公衆便所wwwwww
アステカの遺跡とかイギリスのストーンヘンジとかじゃねーのかよwwww
でもそいつ地底人の知識もスゲーんだよ
地底人て目が退化して無いんだって
じゃあどうやってセンシングしてるかって聞いたらさ
超音波出して反響音を耳で拾ってるんだって
だから耳が大きいんだってさ
それどんな耳だよっていったらさ
絵にかいてくれたんだよ
そしたらさ
完全にエルフwwwww
無駄にクオリティ高いwwww
つぶらな瞳wwwww
ちょwwwww
目がないって言ったじゃんwwwwww
まあそいつ知識も凄いが経験も凄い
どれぐらい凄いかっていうと
宇宙人にさらわれてSEXしたwwww
気持ち悪くないの?って聞いたらさ
菅野美穂に似てただってwwwっww
それお前が好きな女優wwww
何処でさらわれたのか聞いたらなんて言ったと思う?
コーナン八尾店の駐車場wwwww
ワイオミングのデビルスタワーとかじゃねーのかよwwwww
でもそいつまだスキルがあるんだよ
なんと過去透視能力
5年ぐらいは遡れるそうなんだ
そんで俺さ、課題与えたんだよ
あそこのコンビニの可愛い田中さんの過去教えろって
そしたら言ったんだよ
もと女子高生だってwwwww
ちょwwwww
でも一応俺、本人に確かめたんだよ
そしたらさ
ほんとに2年前まで女子高生だったwwwwww
コイツの能力本物だったwwwwwうぇうぇ
常識的考察ってやかましわwwwww

830 :この名無しがすごい! :2021/03/04(木) 23:39:13.94 ID:IlPedRWe0.net
こりゃ30作超えるかな

831 :この名無しがすごい! :2021/03/04(木) 23:51:15.32 ID:OxZEyQKU0.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品
よろしくお願いします。

突然の出来事に立ち尽くす。
テレビのアナウンサーは緊迫した表情で繰り返した。
「北朝鮮が弾道ミサイルを発射しました。予想される着弾地点は東京です、5分後に到達します」
東京、東京だと。そ、そんな馬鹿な。オレが住む場所じゃないか。
「う、うそだろ、ドッキリ番組か」
し、しかし、これはNHKのニュースだ。オレは体が恐ろしく震えだした。
「な、なにやってくれてんだよ、ふざけんな、どういうことだよ、どうすりゃいいんだ、人の命をなんだと思ってんだ」
わけがわからない。どうなってんだ。オレはどこへ逃げりゃいいんだ。もしかしてオレは死ぬのか?
「あのデブ、どんだけ暴君なんだ、残酷すぎる、サイコパスめ、自分だけよけりゃいいのか、エゴイストめ」
アナウンサーがあらたな原稿をあわてて読み始める。
「訂正いたします、予想される着弾地点は大阪です。東京ではなく、大阪です」
オレはワナワナと震え、口を開けたまま、言葉が出なかった。恐れと焦りと怒りはおさまらない、オレはその場にへたり込む。
ああ。
自分がどんな顔をしているのか、誰にも見られたくない。なぜなら。オレは。
薄っすらと笑みを浮かべていた。

832 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 00:22:05.45 ID:38zS92Wt0.net
木曜日時点で11だから30行くかもね。難易度は分からんけど、
こだわりが無ければ書きやすいお題だから。

833 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 01:14:54.26 ID:+kt6b2VEd.net
あかん
なんもうかばん

834 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/05(金) 02:06:07.54 ID:l7LfUPop0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 陛下が苦悶の表情を浮かべながら胸を押さえられた。声にならぬ声を上げられると、その場で頽れる。
 園遊会は騒然となった。絹を裂くような妃がたの悲鳴。『陛下! 陛下!』と必死に呼び掛ける宦官の叫び。『医官を呼べ!』と宮官長が大声で指示を出している。
 月英妃の後ろに控えていた私は、呆然と見ていることしか出来なかった。
 翌日、陛下は崩御された。
 
 朝の務めを果たすべく厨房に向かう。火を使い、ぬるま湯を盥に張る。両手で持ち上げると、主人である月英さまのお部屋へと足を向けた。
 一歩進む度に気鬱になる。
 敬愛する主のお顔を見るのが、ここ数日辛くてならなかった。しかし会わないわけにもいかない。
 とうとう、お部屋の前に着いてしまう。一旦盥を床に置くと、意を決して口を開く。
「水蓮です。入ります」
 戸を開き、盥を持ち上げてから入室する。
 月英さまのお部屋は、前後二室に区切られていて、前室が書斎、後室が寝室となっている。
 普段ならまだ寝ておられる時間だが、月英さまは既に起きていた。書斎にある長椅子(カウチ)に寝衣姿で横になっている。表情には陰があった。悲嘆、その言葉がこれ以上なく似合う有様だ。
「月英さま」
 呼び掛けに、ゆるゆるとお顔を持ち上げられ、虚ろな目で私を見る。
「水蓮」
 か細い声。私は常と同じ態度を心掛け『朝のお支度の手伝いをいたします』と返した。
 盥のぬるま湯で洗顔をしてもらい、その間に衣装箪笥から白生地に黒の刺繍がされた襦裙――喪服を取り出す。
 着衣を手伝い、次いで櫛を手に取る。
「御髪を梳かせて頂きます」
 背後に回り、少しほっとする。月英さまの痛ましいお顔を見なくて済むから。
 長い金砂の御髪を梳いていく。
 月英さまは、漢人ではなかった。北の異民族討伐の折に捕虜となり、都に連れて来られ、そこで偶々陛下の目に留まり、妃となった。
 長い金砂の御髪、翠の瞳、白い肌、嫋やかな歌声は簫のよう。異民族の余りに麗しい佳人を、陛下は溺愛した。
 遠く異国に連れてこられた月英さまは、初めの頃は人目を憚らず泣き、恨み言を繰り返していた。
 しかし陛下が何くれと気に掛け、月英さまの憂いが晴れるようにと心を砕き続ける内に、月英さまも陛下に心を開かれるようになられた。
 最近では、お二人の仲睦まじいお姿を拝見できるようになったのに……。
「水蓮」
 月英さまがぽつりと呟く。
「また一人になってしまったわ。私は、これからどう生きればいいの?」
「月英さま……」
 言葉に詰まる。何事か、慰めの言葉を口にすべきなのに、何も言うことが出来ない。
「……ごめんなさい。お前を困らせることを言ってしまったわ」
 振り向かれた月英さまが済まなそうな顔をされる。
 ――ッ! 本当にお辛いのはご自分なのに、このお方は……。
「お下がり。少し一人にさせて頂戴」
「はい」
 退室を促され、私は逃げるように背を向ける。
 ああ、自分は何と浅ましい人間だろう。
 慰めることが出来ぬばかりか、退室を促され内心安堵するとは。
 自己嫌悪を覚えながら、そそくさと足を進める。が、あることに思い当たり『あっ!』と声を出しそうになる。
 花瓶の水替えを失念していたことに気付いたからだ。思わず後ろを振り返ると、月英さまのお顔が視界に入る。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

835 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/05(金) 03:22:46.06 ID:k5GuZ5S10.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

>742
>743
>747
>758
>759
>760
>804
>808
>818
>821
>824
>831
>834

只今、十三作品!(`・ω・´)

836 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/05(金) 03:28:35.75 ID:k5GuZ5S10.net
>>829
その友人に次に会えることがあれば実践して欲しい!

美世君は何気ない笑顔を作る!
視点の定まらない目で友人は今日も地底人の話に興じる!
美世君は、うんうん、と理解を示した頷きを繰り返し、
手にしたハンカチで友人の口元の涎をそっと拭う!
話を聞き終わった美世君は人を安心させる笑みで、
「もう頑張らなくていいんだよ」と云いながら友人を抱き締める!

実に目に沁みる話ではないか!(`・ω・´)逆に美世君は頑張れ! 逃げちゃダメだ!

837 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/05(金) 03:33:15.66 ID:k5GuZ5S10.net
最近はこのような時間帯から仕事を始めている!
実に静か! 集中力が高まる、ような気がする!
同じ豆のブレンドのコーヒーもやや美味しく感じられる!
程よい寒さが旨味に加わる! 炬燵も執筆を手助けしてくれる!

さて、やるとしよう!(`・ω・´)後宮物を目にするとリーマン君を思い出す!

838 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 07:36:23.90 ID:u4Aq0y+7a.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
「何してるの?冷めちゃうじゃない。早く座りなさい」
 テーブルに置かれた二つのホットコーヒーに男は驚いた。
「えっ!?あぁ……うん、いやまさか君が?」
「ここは私の家で、私のリビングよ?他に誰がコーヒー入れるっていうのよ」
「君はその……ちょっと変わった女性だったから」
まさかコーヒーを出してもらえると思わなくて、男は戸惑いを隠せない。
殺風景な部屋だった。ガラステーブルと椅子。灰皿、置時計、伏せられた写真立て。
「正直に言えば?『冷徹で無表情な女』って」
「そんなこと僕は言ってないよ!ま、周りはそう言ってたかもしれないけど……」
「別にいいけど。で、何しに来たの?意味もなく元クラスメイトを尋ねにきたわけじゃないんでしょ?」
『元クラスメイト』その表現がチクリ、と男の胸に刺さる。
「……ただクラスメイトを尋ねに来ただけだよ」
 何を何から話せばいいかよく分からなくて、異様に遅い秒針だけが聞こえた。
 コーヒーを啜る彼女をちらりと見る。彼女は大人っぽくなっていた。短くなった黒髪、制服代わりのリブニットと黒のスキニー。
「何?」女と目が合った。変わらないものもあった。退屈そうな顔。綺麗で冷たい目。
「じゅ、十年振りだね!今は何をしてるの!?」
じっと見つめていたのがバレたと思い、慌てて取り繕うため、うっすらと笑みを浮かべる。
「綺麗で身長も高いからもしかしてモデルさんとかーー」「やめてよねその愛想笑い。気持ちが悪い」視線と言葉が、言葉を遮る。
「ご、ごめん」
 彼女はコーヒーを置き、
「……本来、『笑う』という行為は、屈服を意味するそうよ。プライドの高いお笑い芸が笑うのを我慢するように。笑ってしまえば目の前にいる人間に屈服するの。分かる?」
「……だから君は、高校のころ笑わなかったの?」
「屈服という、本来の意味を知っていたわけじゃない。ただ嫌いな同級生で笑うことがなかった、それだけよ」
冷たい刃が心を刺していく。
「うっすら笑みを浮かべる奴。二月にチョコレートを渡すような奴。そんな奴らが大嫌いなの」
「ご、ごめん」
また長い沈黙が流れる。男はどんどん胃が小さくなっていくのが分かった。
小さくなりすぎてどこかへ飛んで行ったと勘違いするほどの時間が経て、ようやく男は用件を口にした。
「……あの日、僕は現場にいたんだ」
 無表情の彼女の眉が動く。
「サッカー部の片付けのために体育倉庫に行って……君が先輩にれ……レイプされてたのを、僕は見つけた」
顔を上げて彼女を見る。
「……そうあの日に」
視線の合わぬまま、彼女は呟くように思い出す。
「声を上げようとしたんだ……でもあいつら」
「あの日、いたのね」
「謝りたくて……その、もしあの日あの場所で、僕が声を上げていたらなにか変わったんじゃないかって……ずっと謝りたくて……でも君は学校に来なくなって」
「そっか……」
「本当にごめん……」
男は泣きながらテーブルに頭をつける。
女は静かに立ち上がり、
「コーヒー、冷めちゃったわね」
と口をつけていない男のコーヒーと自分の空のカップを台所へ持っていく。
二つ分のカップを持ち、テーブルに戻る。
頭を下げ細い声で謝る男が昔の姿と重なり、女は窓の外へ視線を逃がす。ぶっきらぼうな言葉だった。
「……今は、映画館のスタッフとして働いてるわ」
「えっ?」
それから、女は。抑揚のない言葉を話しはじめた。先ほどまでのことをなかったかのように。男は戸惑いながら、それに合わせる。そのうち男がしゃべり、女が相冷たい言葉を放つ。男は苦笑いをし、気持ち悪いと怒られ、それを受け入れる。
映画を見る約束をし、元彼氏は玄関の扉を閉めた。彼女は大きく肩をおろし、煙草に火をつけた。どうして彼の前では吸わなかったのか、考える気にもならなかった。寝転がった写真立てを手に取り、一度だけ行った映画館デートの写真を眺める。
「自分が楽になるために、謝りたかったのよねあなたは」
 自分勝手な奴だ、と心の中で思う。でも謝罪を受け入れれば、少なくとも彼は救われる、そう思った。
女はあの日について思い出す。
寒空の下、彼の部活が終わるのを待っていた。
らしくもなく、バレンタインのチョコを作った。初めてだった。
体育倉庫に連れていかれ、男達に襲われた。初めてだった。
異物が入ってくる感覚がとにかく恐ろしかった。やめてと叫んでも止まらず。そして何度も叫び、声が枯れ。どうしようもなくなったから。
媚びへつらうかのように。私は。
うっすらと笑みを浮かべた。

839 :蜜柑箱『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/05(金) 07:41:18.26 ID:u4Aq0y+7a.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
「何してるの?冷めちゃうじゃない。早く座りなさい」
 テーブルに置かれた二つのホットコーヒーに男は驚いた。
「えっ!?あぁ……うん、いやまさか君が?」
「ここは私の家で、私のリビングよ?他に誰がコーヒー入れるっていうのよ」
「君はその……ちょっと変わった女性だったから」
まさかコーヒーを出してもらえると思わなくて、男は戸惑いを隠せない。
殺風景な部屋だった。ガラステーブルと椅子。灰皿、置時計、伏せられた写真立て。
「正直に言えば?『冷徹で無表情な女』って」
「そんなこと僕は言ってないよ!ま、周りはそう言ってたかもしれないけど……」
「別にいいけど。で、何しに来たの?意味もなく元クラスメイトを尋ねにきたわけじゃないんでしょ?」
『元クラスメイト』その表現がチクリ、と男の胸に刺さる。
「……ただクラスメイトを尋ねに来ただけだよ」
 何を何から話せばいいかよく分からなくて、異様に遅い秒針だけが聞こえた。
 コーヒーを啜る彼女をちらりと見る。彼女は大人っぽくなっていた。短くなった黒髪、制服代わりのリブニットと黒のスキニー。
「何?」女と目が合った。変わらないものもあった。退屈そうな顔。綺麗で冷たい目。
「じゅ、十年振りだね!今は何をしてるの!?」
じっと見つめていたのがバレたと思い、慌てて取り繕うため、うっすらと笑みを浮かべる。
「綺麗で身長も高いからもしかしてモデルさんとかーー」「やめてよねその愛想笑い。気持ちが悪い」視線と言葉が、言葉を遮る。
「ご、ごめん」
 彼女はコーヒーを置き、
「……本来、『笑う』という行為は、屈服を意味するそうよ。プライドの高いお笑い芸が笑うのを我慢するように。笑ってしまえば目の前にいる人間に屈服するの。分かる?」
「……だから君は、高校のころ笑わなかったの?」
「屈服という、本来の意味を知っていたわけじゃない。ただ嫌いな同級生で笑うことがなかった、それだけよ」
冷たい刃が心を刺していく。
「うっすら笑みを浮かべる奴。二月にチョコレートを渡すような奴。そんな奴らが大嫌いなの」
「ご、ごめん」
また長い沈黙が流れる。男はどんどん胃が小さくなっていくのが分かった。
小さくなりすぎてどこかへ飛んで行ったと勘違いするほどの時間が経て、ようやく男は用件を口にした。
「……あの日、僕は現場にいたんだ」
 無表情の彼女の眉が動く。
「サッカー部の片付けのために体育倉庫に行って……君が先輩にれ……レイプされてたのを、僕は見つけた」
顔を上げて彼女を見る。
「……そうあの日に」
視線の合わぬまま、彼女は呟くように思い出す。
「声を上げようとしたんだ……でもあいつら」
「あの日、いたのね」
「謝りたくて……その、もしあの日あの場所で、僕が声を上げていたらなにか変わったんじゃないかって……ずっと謝りたくて……でも君は学校に来なくなって」
「そっか……」
「本当にごめん……」
男は泣きながらテーブルに頭をつける。
女は静かに立ち上がり、
「コーヒー、冷めちゃったわね」
と口をつけていない男のコーヒーと自分の空のカップを台所へ持っていく。
二つ分のカップを持ち、テーブルに戻る。
頭を下げ細い声で謝る男が昔の姿と重なり、女は窓の外へ視線を逃がす。ぶっきらぼうな言葉だった。
「……今は、映画館のスタッフとして働いてるわ」
「えっ?」
それから、女は。抑揚のない言葉を話しはじめた。先ほどまでのことをなかったかのように。男は戸惑いながら、それに合わせる。そのうち男がしゃべり、女が相冷たい言葉を放つ。男は苦笑いをし、気持ち悪いと怒られ、それを受け入れる。
映画を見る約束をし、元彼氏は玄関の扉を閉めた。彼女は大きく肩をおろし、煙草に火をつけた。どうして彼の前では吸わなかったのか、考える気にもならなかった。寝転がった写真立てを手に取り、一度だけ行った映画館デートの写真を眺める。
「自分が楽になるために、謝りたかったのよねあなたは」
 自分勝手な奴だ、と心の中で思う。でも謝罪を受け入れれば、少なくとも彼は救われる、そう思った。
女はあの日について思い出す。
寒空の下、彼の部活が終わるのを待っていた。
らしくもなく、バレンタインのチョコを作った。初めてだった。
体育倉庫に連れていかれ、男達に襲われた。初めてだった。
異物が入ってくる感覚がとにかく恐ろしかった。やめてと叫んでも止まらず。そして何度も叫び、声が枯れ。どうしようもなくなったから。
媚びへつらうかのように。私は。
うっすらと笑みを浮かべた。

840 :蜜柑箱『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/05(金) 07:52:17.03 ID:suIUOcf30.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
「何してるの?冷めちゃうじゃない。早く座りなさい」
 テーブルに置かれた二つのホットコーヒーに男は驚いた。
「えっ!?あぁ……うん、いやまさか君が?」
「ここは私の家で、私のリビングよ?他に誰がコーヒー入れるっていうのよ」
「君はその……ちょっと変わった女性だったから」
まさかコーヒーを出してもらえると思わなくて、男は戸惑いを隠せない。
殺風景な部屋だった。ガラステーブルと椅子。灰皿、置時計、伏せられた写真立て。
「正直に言えば?『冷徹で無表情な女』って」
「そんなこと僕は言ってないよ!ま、周りはそう言ってたかもしれないけど……」
「別にいいけど。で、何しに来たの?意味もなく元クラスメイトを尋ねにきたわけじゃないんでしょ?」
『元クラスメイト』その表現がチクリ、と男の胸に刺さる。
「……ただクラスメイトを尋ねに来ただけだよ」
 何を何から話せばいいかよく分からなくて、異様に遅い秒針だけが聞こえた。
 コーヒーを啜る彼女をちらりと見る。彼女は大人っぽくなっていた。短くなった黒髪、制服代わりのリブニットと黒のスキニー。
「何?」女と目が合った。変わらないものもあった。退屈そうな顔。綺麗で冷たい目。
「じゅ、十年振りだね!今は何をしてるの!?」
じっと見つめていたのがバレたと思い、慌てて取り繕うため、うっすらと笑みを浮かべる。
「綺麗で身長も高いからもしかしてモデルさんとかーー」「やめてよねその愛想笑い。気持ちが悪い」視線と言葉が、言葉を遮る。
「ご、ごめん」
 彼女はコーヒーを置き、
「……本来、『笑う』という行為は、屈服を意味するそうよ。プライドの高いお笑い芸が笑うのを我慢するように。笑ってしまえば目の前にいる人間に屈服するの。分かる?」
「……だから君は、高校のころ笑わなかったの?」
「屈服という、本来の意味を知っていたわけじゃない。ただ嫌いな同級生で笑うことがなかった、それだけよ」
冷たい刃が心を刺していく。
「うっすら笑みを浮かべる奴。二月にチョコレートを渡すような奴。そんな奴らが大嫌いなの」
「ご、ごめん」
また長い沈黙が流れる。男はどんどん胃が小さくなっていくのが分かった。
小さくなりすぎてどこかへ飛んで行ったと勘違いするほどの時間が経て、ようやく男は用件を口にした。
「……あの日、僕は現場にいたんだ」
 無表情の彼女の眉が動く。
「サッカー部の片付けのために体育倉庫に行って……君が先輩にれ……レイプされてたのを、僕は見つけた」
顔を上げて彼女を見る。
「……そうあの日に」
視線の合わぬまま、彼女は呟くように思い出す。
「声を上げようとしたんだ……でもあいつら」
「あの日、いたのね」
「謝りたくて……その、もしあの日あの場所で、僕が声を上げていたらなにか変わったんじゃないかって……ずっと謝りたくて……でも君は学校に来なくなって」
「そっか……」
「本当にごめん……」
男は泣きながらテーブルに頭をつける。
女は静かに立ち上がり、
「コーヒー、冷めちゃったわね」
と口をつけていない男のコーヒーと自分の空のカップを台所へ持っていく。
二つ分のカップを持ち、テーブルに戻る。
頭を下げ細い声で謝る男が昔の姿と重なり、女は窓の外へ視線を逃がす。ぶっきらぼうな言葉だった。
「……今は、映画館のスタッフとして働いてるわ」
「えっ?」
それから、女は。抑揚のない言葉を話しはじめた。先ほどまでのことをなかったかのように。男は戸惑いながら、それに合わせる。そのうち男がしゃべり、女が相冷たい言葉を放つ。男は苦笑いをし、気持ち悪いと怒られ、それを受け入れる。
映画を見る約束をし、元彼氏は玄関の扉を閉めた。彼女は大きく肩をおろし、煙草に火をつけた。どうして彼の前では吸わなかったのか、考える気にもならなかった。寝転がった写真立てを手に取り、一度だけ行った映画館デートの写真を眺める。
「自分が楽になるために、謝りたかったのよねあなたは」
 自分勝手な奴だ、と心の中で思う。でも謝罪を受け入れれば、少なくとも彼は救われる、そう思った。
女はあの日について思い出す。
寒空の下、彼の部活が終わるのを待っていた。
らしくもなく、バレンタインのチョコを作った。初めてだった。
体育倉庫に連れていかれ、男達に襲われた。初めてだった。
異物が入ってくる感覚がとにかく恐ろしかった。やめてと叫んでも止まらず。そして何度も叫び、声が枯れ。どうしようもなくなったから。
媚びへつらうかのように。私は。
薄っすらと笑みを浮かべていた。

841 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 07:53:03.60 ID:suIUOcf30.net
連続投稿すみません
名前が間違ってたり最後が間違っていたりしたので修正しました

842 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/05(金) 08:04:53.95 ID:k5GuZ5S10.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

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>834
>840

只今、十四作品!(`・ω・´)

843 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 12:02:47.69 ID:1u6MCfzda.net
ワイ杯も後半戦に突入すね。これまで投稿された皆さんお疲れ様です。
全部の作品に目を通してます。
執筆中の皆さんもファイトです。

844 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 12:14:12.20 ID:4BkbqYtYa.net
今のところおすすめはどれですか?

845 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 12:24:14.75 ID:1u6MCfzda.net
>>743
が内容的にシニカルで意外と好きです。
お題も自然に消化してます。

>>834
がこれまでの投稿作品の中では文章が一番美しいと思います。

印象的なのは上記の2作ですね。

846 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 13:09:11.81 ID:yXsdhjtwa.net
自薦または見る目ないかどっち?

847 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 13:26:30.12 ID:2eki4uq30.net
>>846
そう聞かれて「自薦」と答えられたら、拍手するしかないな

848 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 14:09:22.18 ID:1u6MCfzda.net
見る目のありなしの決め方が分からないけど、感性が特殊なのは否定しません。

849 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 14:11:12.53 ID:Lyv32K8S0.net
>>834が優勝候補かな
プロが書いただけあってとても美しい

850 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/05(金) 14:20:17.41 ID:tN7+h2C8p.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 残業を終え、帰宅の途中コンビニで夕食を買い、自宅の玄関の鍵を開け、短い廊下を歩き、リビングの扉を開ける。
いつもと変わらない、半ば無意識のうちに済まされた行動はリビングの照明を点けることを最後に、私をいつもと違う現実に導いた。
 私が、倒れている。
 リビングの入り口からソファに向かう途中、うつ伏せになって倒れている男を見、しかし、私は直感的にその男を「私」だと悟った。
 硬直していた意識が少しずつ落ち着きを取り戻す。
何かをしなければいけないと思いコンビニで買ってきたペットボトルのお茶を一口飲み込んだ。ゴクリという音が大袈裟なほど部屋に響き渡る。
 その男は見れば見るほど「私」だった。三着しかないスーツの柄は今朝私が選んで着たものと同じだったし、少し天然パーマがかかったくせのある髪質は私の髪質そのものだった。
私と同じ中肉中背の身体は呼吸に合わせてゆっくりと動いている。生きている、そう思った。
 それならばこの私は一体誰なんだろう、という当たり前の疑問に帰結するまでかなりの時間を要した。
意識が魂のように抜け出して、自身を眺めているのか。ベランダの窓ガラスを向いて確かめてみる。確かに私と男の姿は窓ガラスに映り込んでいた。
 すると、誰かの悪戯なのだろうか、とも考えたがその考えをすぐに打ち消した。
私には私に悪戯をするような親しい間柄の人間などいないではないか。
第一に私は鍵を開けて入ってきた。開けたということは閉まっていたということだろう。

「人間は……」

 不意に声が聞こえた。倒れている男の方から聞こえてくる。
「人間は、思いもよらない出来事に相対した時、二種類に分かれるんだってな」
「しゃ、喋れるのか?!」
 突然の事に驚き動悸が激しくなった。そしてこいつは私の声をしている。やはり、この男は「私」なのだろうか。
「ひとつは、状況を整理して、とりあえずでもいいからと行動を起こすタイプ」
 男は構わず続ける。
「もうひとつはいつまで経っても結論を先延ばしし、ただただ無意味に立ち止るタイプだ。馬鹿みたいにな。
どうだい? おまえが家に帰ってから随分と経つじゃないか」
「おまえは俺なのか? それともこれが幻覚というやつなのか?」
「さあね。幻覚かも知れない、幻覚じゃないかも知れない。どっちだっていいじゃないか。
現に俺はここにいて倒れているんだから。ずっと何の介抱も受けずにな」
 ククッと男の笑う声がする。まったく嫌な奴だ。
「そうだな。俺は『嫌な奴』だな。だから、妻子にも逃られ親しい友人もいない。そうだな。俺は嫌な奴だ。まったくその通りじゃないか」
「こ、心が読めるのか?」
 さあね、と男はひと言だけいった。のらりくらりとして埒があかない。
「俺はな、おまえの中の『何か』の象徴なんだよ、きっと。おまえずっと『いっそ倒れてしまいたい』って思っていたじゃないか。
疲れてて、何もかも投げ出してしまいたくて、いっそ倒れてしまえば何かが変わってくれるかも知れない、あるいは――」
 男は一度言葉を止めた。相変わらず突っ伏したままだ。
「あるいはそのまま死んでしまっても構わない。馬鹿みたいじゃないか。だったらさっさと仕事なんて辞めるか死ぬかすればいいのにそうしない」
「うるさい! 少し黙れよ!」
「養育費を払わないといけないからねぇ。仕事も辞められない。ろくに会いにも行かない子供の為に働かないといけない」
「黙れと言っただろ!」
 私は怒りの余り男に怒鳴りつけた。
「先延ばし、先延ばしだ。嫌なことからは上手に逃げる癖に自分の『したい』には偶然を頼って動こうともしない。倒れてしまったらきっと誰かが同情して……」
「うるさい! おまえに、おまえなんかに俺の何が分かるというんだ!」
「分かるさ。分かるだろ?」
 堪らなくなった。こんなやり取りをいつまでも続けていたら本当に頭がおかしくなる。私はゆっくりとネクタイをほどいた。
「ああ、ようやく決心をしたみたいだな。でもいいのか? 俺を殺したらおまえの中の『何か』も死ぬぜ? それが良いものか悪いものかは知らないがね」
 構うものか、私は思った。それにこいつを殺したところでそれは「私」なのだ。罪に問われることもあるまい。
「罪に問われなければ罪は存在しないとでも? 相変わらず卑屈な……」
 私はもう黙れとは言わなかった。代わりに男の横腹を蹴り上げた。うっ、という声を吐いて男は仰向けになる。
素早く男の上に馬乗りになり首にネクタイを巻きつけた。男の瞳に私の顔が映り込んでいるのが見える。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

851 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/05(金) 15:17:37.07 ID:k5GuZ5S10.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

>742
>743
>747
>758
>759
>760
>804
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>818
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>824
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>834
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>850

只今、十五作品!(`・ω・´)

852 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 15:46:53.72 ID:vzp0clM+0.net
世にも怪奇な物語 影を殺した男を見たくなった。

853 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:11:07.79 ID:RK7ZyFwU0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。足下に大きな穴が空いていた。カル(犬だ)が吠えていたのはそのせいか。
 いつもの散歩道。原っぱ。マンホールの蓋が空いているのでもなく。
 立体感のまったくない真っ黒な円が、夏草を踏み倒して地面に張り付いている。
 穴だよな、と思う。黒すぎて本当はなんなのかよくわからない。穴にしか見えないというだけだ。
 晴れた6月の朝だ。大気は濃く、雨の匂いを含んでいる。あたりを見渡す。誰もいない。
 空と穴と生い茂った草。
 おそるおそる上半身だけを前に出して穴をのぞき込んだ。風がそよいできて、草々がふれあう音がする。
「爾が深淵を覗くとき」
 ちょっと洒落のめして言ってみる。子供の頃の魔法使いごっこを思い出しながら。
「深淵もまた爾を覗くのだ」
 黒。あらゆる光を吸い込んで、逃がさない。閉じこめられた光はどこに行ったのだろう。
「あなた、そこで何をしているの?」
 突然声がして、穴の中に娘の顔があらわれる。長いまつげ、大きな眸は透明な青。亜麻色の髪、白い裸の肩。闇の中からなんの感情もうかがえない表情でこちらを見上げている。
 どのくらいの深さにいるのだろうか。
 カルがくんくん鼻を鳴らしながら顔を穴に寄せる。
「君はそこでなにをしているの?」
「訊いたことに答えなさいよ。ちょっと。その犬咬まないでしょうね?」
 彼女はむっと鼻の頭にしわをつくって言い返した。カルがおしりを地面につけて一度だけ吠える。コミュニケーションが必要な局面だ。
「犬の散歩中。カルは咬んだりしない」
「嘘よ」
 彼女は、鏡が像を映しだすより早く言いきった。
「嘘なんて」
「あなたはわたしたちを邪魔しに来たんだわ」
「そんなわけない。『たち』って言ったね。仲間がいるの? ここで何をしてるんだい? 」
 彼女は戸惑ったような表情で、しばらく考えてから言った。
「目印をつくってるのよ。そこにもうひとつ」
 彼女は裸の上半身を浮かび上がらせ西の方を指す。
「そこにも。まっすぐな線をひくの」
 そう言って南を指す。
「なんのために? いつもの散歩道でこんなことされたら困るよ。落ちたら大変だし」
「目印。言ってるでしょ。あなたはここにあるものの光の反射を知覚しているのではなくて、あなたが見ているがために知覚可能になったものを見ているのよ。そんな人はめったにいないから、他の人には関係ないと言いきれるわ。これはあなたとわたしの問題」
「何を言ってるのかわからないけど」
「あなたが光だといってるんだわ。困ったわね。これからまっすぐな線をひかなきゃいけないのに。あなたがいたら空間が歪んじゃう。何も見なかったことにしてもう行って」
「じゃあ、行くよ。でもその前に言いたいんだけど」
「なに」
「僕は人間だ。光じゃない」
「わかったわ。でも同じものなのよ。悪く思わないで」
「さよなら」 
「さよなら」
 
 それから数日後、世界中のあちこちでこんな(・_・)顔文字が発見されはじめた。顔文字(・_・) は無数にあり、なんやかやの専門家が集まってその原因と目的を追求した(僕には口を挟む方法も資格もなかった)が、ついにその日が来るまで謎が解明されることはなかった。
 その日、と言うのはそれを目印に地球外知的生命体の宇宙船が飛来した最初の日、ということだが。
 ただ僕が出会したあの娘、彼女が何だったのか、なぜ目印が必要なのかは皆目わからないのだが、あの娘の作った顔文字だけはこんな感じで。

 :)

 うっすらと笑みを浮かべていた。

854 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:12:25.83 ID:RK7ZyFwU0.net
メル欄に書いちゃったけど
>>853は第56回わいはい参加作品

855 :第56回ワイハイ参加作品 :2021/03/05(金) 16:15:51.45 ID:RK7ZyFwU0.net
  突然の出来事に立ち尽くす。足下に大きな穴が空いていた。カル(犬だ)が吠えていたのはそのせいか。
 いつもの散歩道。原っぱ。マンホールの蓋が空いているのでもなく。
 立体感のまったくない真っ黒な円が、夏草を踏み倒して地面に張り付いている。
 穴だよな、と思う。黒すぎて本当はなんなのかよくわからない。穴にしか見えないというだけだ。
 晴れた6月の朝だ。大気は濃く、雨の匂いを含んでいる。あたりを見渡す。誰もいない。
 空と穴と生い茂った草。
 おそるおそる上半身だけを前に出して穴をのぞき込んだ。風がそよいできて、草々がふれあう音がする。
「爾が深淵を覗くとき」
 子供の頃の魔法使いごっこを思い出して、呪文のように唱えてみる。
「深淵もまた爾を覗くのだ」
 黒。あらゆる光を吸い込んで、逃がさない。閉じこめられた光はどこに行ったのだろう。
「あなた、そこで何をしているの?」
 突然声がして、穴の中に娘の顔があらわれる。長いまつげ、大きな眸は透明な青。亜麻色の髪、白い裸の肩。闇の中からなんの感情もうかがえない表情でこちらを見上げている。
 どのくらいの深さにいるのだろうか。
 カルがくんくん鼻を鳴らしながら顔を穴に寄せる。
「君はそこでなにをしているの?」
「訊いたことに答えなさいよ。ちょっと。その犬咬まないでしょうね?」
 彼女はむっと鼻の頭にしわをつくって言い返した。カルがおしりを地面につけて一度だけ吠える。コミュニケーションが必要な局面だ。
「犬の散歩中。カルは咬んだりしない」
「嘘よ」
 彼女は、鏡が像を映しだすより早く言いきった。
「嘘なんて」
「あなたはわたしたちを邪魔しに来たんだわ」
「そんなわけない。『たち』って言ったね。仲間がいるの? ここで何をしてるんだい? 」
 彼女は戸惑ったような表情で、しばらく考えてから言った。
「目印をつくってるのよ。そこにもうひとつ」
 彼女は裸の上半身を浮かび上がらせ西の方を指す。
「そこにも。まっすぐな線をひくの」
 そう言って南を指す。
「なんのために? いつもの散歩道でこんなことされたら困るよ。落ちたら大変だし」
「目印。言ってるでしょ。あなたはここにあるものの光の反射を知覚しているのではなくて、あなたが見ているがために知覚可能になったものを見ているのよ。そんな人はめったにいないから、他の人には関係ないと言いきれるわ。これはあなたとわたしの問題」
「何を言ってるのかわからないけど」
「あなたが光だといってるんだわ。困ったわね。これからまっすぐな線をひかなきゃいけないのに。あなたがいたら空間が歪んじゃう。何も見なかったことにしてもう行って」
「じゃあ、行くよ。でもその前に言いたいんだけど」
「なに」
「僕は人間だ。光じゃない」
「わかったわ。でも同じものなのよ。悪く思わないで」
「さよなら」 
「さよなら」
 
 それから数日後、世界中のあちこちでこんな(・_・)顔文字が発見されはじめた。顔文字(・_・) は無数にあり、なんやかやの専門家が集まってその原因と目的を追求した(僕には口を挟む方法も資格もなかった)が、ついにその日が来るまで謎が解明されることはなかった。
 その日、と言うのはそれを目印に地球外知的生命体の宇宙船が飛来した最初の日、ということだが。
 ただ僕が出会したあの娘、彼女が何だったのか、なぜ目印が必要なのかは皆目わからないのだが、あの娘の作った顔文字だけはこんな感じで。

 :)

 うっすらと笑みを浮かべていた。

856 :第56回ワイハイ参加作品 :2021/03/05(金) 16:16:30.57 ID:RK7ZyFwU0.net
すんません。>>855にして。

857 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:40:04.62 ID:/n9Nyu+n0.net
>>856
一文目で改行しないと失格なりますよ。

858 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:42:41.15 ID:RK7ZyFwU0.net
ありがとう。
今なおします。

859 :56回ワイハイ :2021/03/05(金) 16:46:19.28 ID:RK7ZyFwU0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 足下に大きな穴が空いていた。カル(犬だ)が吠えていたのはそのせいか。
 いつもの散歩道。原っぱ。マンホールの蓋が空いているのでもなく。
 立体感のまったくない真っ黒な円が、夏草を踏み倒して地面に張り付いている。
 穴だよな、と思う。黒すぎて本当はなんなのかよくわからない。穴にしか見えないというだけだ。
 晴れた6月の朝だ。大気は濃く、雨の匂いを含んでいる。あたりを見渡す。誰もいない。
 空と穴と生い茂った草。
 おそるおそる上半身だけを前に出して穴をのぞき込んだ。風がそよいできて、草々がふれあう音がする。
「爾が深淵を覗くとき」
 子供の頃の魔法使いごっこを思い出しながら、呪文のように唱えてみる。
「深淵もまた爾を覗くのだ」
 黒。あらゆる光を吸い込んで、逃がさない。閉じこめられた光はどこに行ったのだろう。
「あなた、そこで何をしているの?」
 突然声がして、穴の中に娘の顔があらわれる。長いまつげ、大きな眸は透明な青。亜麻色の髪、白い裸の肩。闇の中からなんの感情もうかがえない表情でこちらを見上げている。
 どのくらいの深さにいるのだろうか。
 カルがくんくん鼻を鳴らしながら顔を穴に寄せる。
「君はそこでなにをしているの?」
「訊いたことに答えなさいよ。ちょっと。その犬咬まないでしょうね?」
 彼女はむっと鼻の頭にしわをつくって言い返した。カルがおしりを地面につけて一度だけ吠える。コミュニケーションが必要な局面だ。
「犬の散歩中。カルは咬んだりしない」
「嘘よ」
 彼女は、鏡が像を映しだすより早く言いきった。
「どっちのこと?」
「散歩のこと」 
「嘘なんて」
「あなたはわたしたちを邪魔しに来たんだわ」
「そんなわけない。『たち』って言ったね。仲間がいるの? ここで何をしてるんだい? 」
 彼女は戸惑ったような表情で、しばらく考えてから言った。
「目印をつくってるのよ。そこにもうひとつ」
 彼女は裸の上半身を浮かび上がらせ西の方を指す。
「そこにも。まっすぐな線をひくの」
 そう言って南を指す。
「なんのために? いつもの散歩道でこんなことされたら困るよ。落ちたら大変だし」
「目印。言ってるでしょ。あなたはここにあるものの光の反射を知覚しているのではなくて、あなたが見ているがために知覚可能になったものを見ているのよ。そんな人はめったにいないから、他の人には関係ないと言いきれるわ。これはあなたとわたしの問題」
「何を言ってるのかわからないけど」
「あなたが光だといってるんだわ。困ったわね。これからまっすぐな線をひかなきゃいけないのに。あなたがいたら空間が歪んじゃう。何も見なかったことにしてもう行って」
「じゃあ、行くよ。でもその前に言いたいんだけど」
「なに」
「僕は人間だ。光じゃない」
「わかったわ。でも同じものなのよ。悪く思わないで」
「さよなら」 
「さよなら」
 
 それから数日後、世界中のあちこちでこんな(・_・)顔文字が発見されはじめた。顔文字(・_・) は無数にあり、なんやかやの専門家が集まってその原因と目的を追求した(僕には口を挟む方法も資格もなかった)が、ついにその日が来るまで謎が解明されることはなかった。
 その日、と言うのはそれを目印に地球外知的生命体の宇宙船が飛来した最初の日、ということだが。
 ただ僕が出会したあの娘、彼女が何だったのか、なぜ目印が必要なのかは皆目わからないのだが、あの娘の作った顔文字だけはこんな感じで。

 :)

 うっすらと笑みを浮かべていた。

860 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:46:42.61 ID:RK7ZyFwU0.net
ほんとすみません、何度も

861 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:47:34.12 ID:tN7+h2C8p.net
>>858
✖ うっすらと笑みを浮かべていた。

○ 薄っすらと笑みを浮かべていた。

862 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 16:53:16.86 ID:RK7ZyFwU0.net
orz
今やります

863 :56回参加作品 :2021/03/05(金) 16:58:47.06 ID:RK7ZyFwU0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 足下に大きな穴が空いていた。カル(犬だ)が吠えていたのはそのせいか。
 いつもの散歩道。原っぱ。マンホールの蓋が空いているのでもなく。
 立体感のまったくない真っ黒な円が、夏草を踏み倒して地面に張り付いている。
 穴だよな、と思う。黒すぎて本当はなんなのかよくわからない。穴にしか見えないというだけだ。
 晴れた6月の朝だ。大気は濃く、雨の匂いを含んでいる。あたりを見渡す。誰もいない。
 空と穴と生い茂った草。
 おそるおそる上半身だけを前に出して穴をのぞき込んだ。風がそよいできて、草々がふれあう音がする。
「爾が深淵を覗くとき」
 子供の頃の魔法使いごっこを思い出しながら、呪文のように唱えてみる。
「深淵もまた爾を覗くのだ」
 黒。あらゆる光を吸い込んで、逃がさない。閉じこめられた光はどこに行ったのだろう。
「あなた、そこで何をしているの?」
 突然声がして、穴の中に娘の顔があらわれる。長いまつげ、大きな眸は透明な青。亜麻色の髪、白い裸の肩。闇の中からなんの感情もうかがえない表情でこちらを見上げている。
 どのくらいの深さにいるのだろうか。
 カルがくんくん鼻を鳴らしながら顔を穴に寄せる。
「君はそこでなにをしているの?」
「訊いたことに答えなさいよ。ちょっと。その犬咬まないでしょうね?」
 彼女はむっと鼻の頭にしわをつくって言い返した。カルがおしりを地面につけて一度だけ吠える。コミュニケーションが必要な局面だ。
「犬の散歩中。カルは咬んだりしない」
「嘘よ」
 彼女は、鏡が像を映しだすより早く言いきった。
「どっちのこと?」
「散歩のこと」 
「嘘なんて」
「あなたはわたしたちを邪魔しに来たんだわ」
「そんなわけない。『たち』って言ったね。仲間がいるの? ここで何をしてるんだい? 」
 彼女は戸惑ったような表情で、しばらく考えてから言った。
「目印をつくってるのよ。そこにもうひとつ」
 彼女は裸の上半身を浮かび上がらせ西の方を指す。
「そこにも。まっすぐな線をひくの」
 そう言って南を指す。
「なんのために? いつもの散歩道でこんなことされたら困るよ。落ちたら大変だし」
「目印。言ってるでしょ。あなたはここにあるものの光の反射を知覚しているのではなくて、あなたが見ているがために知覚可能になったものを見ているのよ。そんな人はめったにいないから、他の人には関係ないと言いきれるわ。これはあなたとわたしの問題」
「何を言ってるのかわからないけど」
「あなたが光だといってるんだわ。困ったわね。これからまっすぐな線をひかなきゃいけないのに。あなたがいたら空間が歪んじゃう。何も見なかったことにしてもう行って」
「じゃあ、行くよ。でもその前に言いたいんだけど」
「なに」
「僕は人間だ。光じゃない」
「わかったわ。でも同じものなのよ。悪く思わないで」
「さよなら」 
「さよなら」
 
 それから数日後、世界中のあちこちでこんな(・_・)顔文字が発見されはじめた。
 はじめ、その報告はごくわずかな数でしかなく真偽を疑う声も多かったが、とにかく「ある」ということが認識されると、爆発的な増加をみせた。
 無数に発見された顔文字(・_・) は、すぐに『フェイス』と名付けられ、なんやかやの専門家が集まってその原因と存在意義を調査・研究した(僕には口を挟む方法も資格もなかった)が、ついにその日が来るまで謎が解明されることはなかった。
 その日、と言うのはそれを目印に地球外知的生命体の宇宙船が飛来した最初の日、ということだが。
 ただ僕が出会ったあの娘、彼女が何だったのか、今も皆目わからないのだが、あの娘の作った『フェイス』だけはこんな感じで。

 :)

 薄っすらと笑みを浮かべていた。

864 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 17:04:58.42 ID:RK7ZyFwU0.net
>>861
ありがとねー

865 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 17:10:56.71 ID:/n9Nyu+n0.net
>>863
こういうの好きです。

866 :ぷぅぎゃああああああ :2021/03/05(金) 17:42:12.03 ID:k5GuZ5S10.net
第五十六回ワイスレ杯参加作品

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>863

只今、十六作品!(`・益・´)

867 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 18:46:05.83 ID:2eki4uq30.net
>(`・益・´)
どういう顔?
益々ご清栄のこととお慶び申し上げます的な?

868 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 19:27:51.56 ID:rYGzw2lfF.net
審査作品の数が増えると負担がすごくなるから武者震いの顔ですよ。

869 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 19:42:55.29 ID:SewqiuRZ0.net
>>868
ということは、この先たくさん作品がでれば、いろんな表情が見られるわけですね。
楽しみ。

870 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 21:00:08.28 ID:rXjLaZDoM.net
だって超高難度って言われたら、
みんな燃えちゃうよね( ´・∀・)(・∀・` )ネー

871 :美世だが :2021/03/05(金) 21:27:16.39 ID:2QUOGnTI0.net
はい、おっちゃん来ましたー
けど白熱しているようなので去りまーす

872 :『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/05(金) 21:38:07.43 ID:XaNwgeTb0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。

 トイレから出て目にしたのが乗客のこめかみに銃口を当てて喚き散らす男の姿だというのだから、思わず思考が停止しても仕方のないことだろう。

 あまりにもそれは非現実的な光景で、聞いたことのない言語で喚き散らす男はスクリーンの向こうの住人でしかなかったが、その視線がこちらへと向いたのは自然な流れだった。
 すぐさま彼は自分に座るように命令し、無言でそれに従うことになった。
 当たり前だ。
 自分はヒーローではなく、こんな状況でテロリストに立ち向かうようなハリウッドの映画の主役でも何でもないのだから。
 自分はたまたま修学旅行として海外に向かうことになっただけの学生であり、こんな事件に巻き込まれはしたものの、あくまでも脇役でしかない。
 だから仮にテロリストを止める人間がいるとすればそれは、座席に座る自分へと視線を向けていたテロリストにとっさに飛びついて銃を奪うとそのまま顔面に拳を叩き込んだ強面の男性のような人を指すのだろう。
 一部の乗客から歓声と悲鳴が沸き、そのまま男性が犯人を拘束しようとしたところ、にやりとテロリストは笑みを浮かべた。
 爆発音。
 ぐらぐら、と機体が揺れ、何度も上下運動を繰り返したことで内臓がかき混ぜられたかのような不快感と吐き気を催していた。
 落ち着くようにとのCAからの言葉など耳を切り裂くような悲鳴の中では雑音でしかなく、今自分が何をすべきかすら不明瞭な中、眼前に飛び出してきた酸素マスクを口に当てると紐を引っ張った。
 本当に酸素は供給されるのか、これは不良品じゃないのか、とネガティブな想像ばかりが頭の中に浮かび、それでも今自分に出来ることはこれしかないのだと信じて、それを行っていく。
 パニック。
 このような事態に遭遇することなど人生では初めてのことであり、それでも、だからこそ現実と受け止めきれない部分と、現実と切り離しているからこそ、淡々と画面の向こうの出来事のようにやるべきことをやれていたのかも知れない。
 もし、これを現実だと認識していたら自分も冷静に行動することなど出来ていなかっただろう。
 叫び声に窓の外を見てみれば黒煙があがっているのが見えた。
 右翼のエンジンに異常が生じたと言っていたが、これは本当にまずいことになっているのではなかろうか。
 現在の飛行機の位置は太平洋のど真ん中であり、着陸の出来る陸地などありはしない。
 振動とともに急速に高度が下がっていく感覚、だが、それは普段の着陸時のそれとは違い、安心など一切ない暴力的なそれで、自分でも無意識だったが、死の恐怖に悲鳴をあげながら凄まじい衝撃に身を任せることになった。
 青。
 意識を取り戻して最初の感想がそれだった。
 いや、それ以外に何を言えば良いのか、何しろ自分の目に飛び込んできたのはどこにでもあるような、それこそ日本で毎日のように見えていた真っ青な雲一つない青空であり、それはあまりにも日常のワンページでしかなかった。
 全ては胡蝶の夢だったと思えれば良かったが、残念なことにあれは夢ではなかった。
 起き上がってみるとどうやらどこかの砂浜に流れ着いたようだったが、周囲を見渡しても他に流れ着いた人間は見当たらなかった。
 或いはここは死後の世界であり、三途の川のような場所なのではないだろうか。
 本当は自分はあの事故で死んでしまったのではないだろうか、と不安になり自分の胸に手を当てた。
 触れた指先に伝わる濡れた布の感触。
 海水で冷えきった身体。
 だが、そこには確かに体温と、生命の鼓動があった。
 生きている。
 その事実を確認して、気づけば自分は笑みを浮かべていた。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

873 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 21:46:15.20 ID:rXjLaZDoM.net
>>871
オフロスキーの「呼んだ? 呼んでない。じゃまたねー」思い出した

874 :『第五十六回ワイスレ杯参加作品』 :2021/03/05(金) 23:00:26.45 ID:U5vN78Uq0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 五月初めの、休日の午後。写真部員の私は、公園の池に遊ぶ鴨の親子をカメラで追っていた。
 そこに上空から舞い降りてきた鴉が、子鴨の一羽を攫って行ったのだ。
 私はその時、ファインダーを覗きながらちょうどシャッターを切っていたところだった。ショックのあまり指先を戻すのも忘れた私の手の中で、一眼レフはパシャパシャと連写を続け、悲劇の一部始終を記録した。
 私は急いで家に戻り、泣きながら母に報告した。
「お母さーん。鴨が、鴨の赤ちゃんがー」「どうしたの、頼子!」
 私が話すと、母は「とりあえずその写真を見てみましょう」と言った。そしてパソコンに映し出された十数枚の連続画像に、二人は息を飲み、私は声を上げて泣き叫んだ。
「ねえ、これ消していい?! こんなのいらない! もう見たくない!」
 それは、無垢な命が理不尽な暴力によって奪われる、その刹那の惨劇を刻々と見せ付けるあまりにも残酷な映像だった。すぐさま消去しようとする私に、だが母は告げた。
「ねえ、これ一度先生に見てもらった方が良くない?」
 翌日、部室に顔を出した私は、その画像を先生や部員達に見せた。
「うーん」
「すっげ」「正に衝撃映像」「可哀そう」
 先生は腕を組んで唸り、仲間達も動揺を隠せない。私は正視できず横目で覗き見ながら、でも逸らすことも出来ずにいた。
「ひとつ提案なんだが」暫くして先生がポツリと告げた。「この写真、コンテストに出してみないか?」
 十数枚の中から一枚を先生が選び、新聞社主催のコンテストに応募した。
 そしてその一枚が、大賞に選ばれた。
 写真は新聞の見開きに大きく掲載され、私は一躍有名人になった。雑誌やテレビ局が連日取材に訪れ、街では知らない人が声をかけて来る。自分でも何が起きているのか判らないような混乱の日々が続いた。
 でもそんなお祭り騒ぎもいつまでも続くわけじゃない。数ヶ月が経ち、騒動が収まり静かな日常が戻って来た頃。
 私は、カメラを持つことが出来なくなっていた。
 コンテストなんて本当は嫌だったのに、あんな写真は捨ててしまいたかったのに。皆に賞賛されればされるほど、それを言い出せなかった自分の弱さと、そのくせ受賞を喜んでいる姑息さに嫌気がさした。
 鴉を見れば石を投げた。母にも当たり散らした。自分をこんな風にした写真が、大嫌いになった。
 抜け殻のような日々が過ぎ、再び春が訪れる。
 私は写真部を辞め、休日を自室の窓から外を眺めるだけで過ごしていた。そんな五月の、とある晴れた日。
 隣の家の屋根に、奇妙な一羽の鳥が舞い降りてきた。いや、落ちてきたと言った方がいいかも。黒と灰色のまだらで、不格好で、一見産毛を残した雛鳥のようにも見えるけど、でも大きい。
 その鳥は屋根から滑り落ちそうになりながら必死に羽をバタつかせ、瓦の縁にしがみついていた。私がハラハラしながらその様子を見ていると、そこに別の鳥が降りてきた。
 鴉だ! あの子が危ない! 私は部屋にあったテニスボールを手に取り、鴉に投げつけようとした。
 だがその時、私は自分の眼を疑った。鴉が灰色の鳥に向かってカァと声をあげると、その子はヨタヨタと自分から鴉に寄って行ったのだ。
 そうか、あれは鴉の子。巣立ちなのか。
 親鴉は、子鴉が近づくと誘い出すように飛び立った。子鴉は慌てて後を追おうとするが、羽をバタつかせるだけで飛び立つには至らない。
 親鴉はすぐに戻って来て、また子鴉を誘った。子が追う、親が飛び立つ。そして子鴉は意を決し、屋根を蹴る。
 その瞬間、子鴉は脚を踏み外し屋根を滑り落ちて行った。
「あっ!」
 私は思わず窓から身を乗り出す。でも幸いなことに、雨樋の所で止まっていた。
 子鴉は再び屋根をよじ登り、頂上に立った。そして上空を旋回する親鴉を見上げながら、何度も羽を振る。
「頑張れ、頑張れ」
 私は小声で呟きながら、ポケットからスマホを取り出した。
 カメラを起動させ、子鴉に向ける。スクリーンの中で子鴉は大きく羽を広げ、力を溜め込むように腰を落とす。そして次の瞬間。
「行け」
 その呟きと同時に子鴉が飛び立ち、私はシャッターボタンを押した。

 二羽の鴉が飛び去って行く。
 息を吐き、スマホのスクリーンを閉じると、暗くなった画面に自分の顔が映り込んでいるのが見えた。
 でも、この顔って……。
 おかしいな、こんなの変だよ。だって、笑うことなんてもう忘れたはずなのに。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

875 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/05(金) 23:17:03.66 ID:3bip0f+50.net
突然の出来事に立ち尽くす。
言葉から意味が剥がされる。
進むことも戻ることもできず、足がすくむ。いったいなぜこんなことに。
ゲシュタルト崩壊。
昔、講義で聞いた言葉だ。美学だったか心理学だったか。
私は掌編を書こうとしていた。例えばこんな書き出だし。

✳
 突然の出来事に立ち尽くす。
 いったいどうしてこんなことになってしまったのだろう。
 予感はあった。
 夫の性癖はわかっているつもりだった。
 初めてのセックスは義務的で、それは挿入と射精を目的とした生殖のためのセックスだった。
 しかし回数を重ねるにつれて、夫には秘密があるのだとまんこを突き上げる痛みが私にそう伝えた。
 隠してはいたが、例えば食事をするときの何気ない仕草にもそれが潜んでいた。
 私は、なぜこの男と結婚したのかとセックスするたびに云々。

そして物語はこんなふうに終わるはずだった。
夫の秘密に迫った私は裸にされ、見知らぬ男たちに囲まれる。

✳
 あまりに儀式じみていた。これではまるで生贄ではないか。
 そのとき「あんた、そこに愛はあるんか」と声がする。
 そんなバカな。
 振り返ると、そこに夫の顔があった。
 薄っすらと笑みを浮かべていた。

これで勝つる。そう思った(笑
しかし、次第に主語の耐えられない軽さに物語のゲシュタルトが崩壊する。
笑みは失われ、薄っすらと改行が浮かぶ。
    m、
「あんた、そこに愛はあるんか」骨なしアイヴァーが叫ぶ。
太陽が私を優しく温めてくれる。私はようやく自分を取り戻したことを感じる。
かつてないことが私に起こっていた。
薄っすらと笑みを浮かべていた。
 
そして懐かしい顔がそこにあった。
「あんた、そこに愛はあるんか」剛勇のビヨルンが呟く。
薄っすらと笑みを浮かべていた。
 
「あんた、そこに愛はあるんか」穏やかな死顔で妻が言う。
薄っすらと笑みを浮かべていた。
 
これは本当に彼が仕組んだことなのだろうか。
二人で撮った写真の彼を見る。
「あんた、そこに愛はあるんか」と問いかける。
薄っすらと笑みを浮かべていた。

続けろと彼女は言った。
    e、
突然の出来事に立ち尽くす。
瞼の裏を幾つも作り物の場面が巡る。
文章は繋がりを求めて彷徨い、やがて意味が私を見捨てる。
離れていく主語と私。
「あんた、ソコにアイはある↑んか」
消えた主語の向こうに意味と置き去りにされる私。
薄っすらと笑みを浮かべていた。

876 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 23:32:02.22 ID:MDHLQ0X30.net
老婆心的お節介アドバイスもとい自己主張きいてもいい人いますか?

877 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 23:37:37.94 ID:suIUOcf30.net
お願いします

878 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 23:41:27.99 ID:7kDWAtTq0.net
お断りします

879 :この名無しがすごい! :2021/03/05(金) 23:58:26.43 ID:MDHLQ0X30.net
お願いとお断りw
ええと、ではぼかします。お題の理解が僅差の場合の結果に響きそうなんで。
書いてる人は頑張ってください。

880 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 00:18:28.36 ID:kh0EYaqA0.net
突然の出来事に立ち尽くす。
衝動的な行動をしているのにもかかわらず、空はどこまでも青く、太陽は眩しく、頬に触れる風はすがすがしい。
ここに来るのは初めてだ。
生まれて初めて見る素晴らしい景色に俺は息を飲む。
そして、新しい一歩を踏み出す。
「君がまた俺を見つめてくれるように、頑張るよ」
そう独りごちながら――。

「なあ、一緒に遊ぼうぜ」
教室の端にぽつんと一人でいることが多かった俺に、君は語りかけてきてくれた。
「え? 俺?」
最初は自分に話しかけてきているのかどうかも分からず、思わず聞き返してしまう。
それくらい、誰かが話しかけてきてくれるのが珍しかったのだ。
「お前しかいないだろー!」
君は笑いながら言った。

君は俺とよく二人でつるみ、よく話をした。
休日にも会うようになり、共に遊ぶ機会が増えた。
つまらなかった学校の生活が次第に楽しくなっていく。
学校に行けば君と会える。
他のつまらないことはどうでも良くなるくらい、魅力的なことだった。

しかし、いつのころからか君には新たな友達が増え、俺と二人で話す機会は減っていった。
「なあ、今話せる?」
俺から話しかけることが増えていった。
次第に、
「ごめん。今忙しくって」
君が断ることが増えていく。
そして、俺は絶望を覚えた。

友人など、親友など。もともとどうでもよかったはずだ。
しかし、一度楽しみを覚え絶頂を迎えると失うのが惜しくなる。
一人の時間を物足りないと感じ、取り戻したいと思えてくる。
俺は次第に失ったもの――君の俺に対する関心を取り返そうと考え始める。

そして、ある日。突然思い立ち行動に移した。
【今日の昼休憩の12:30に、教室の一番右の窓から外を見て。良いものを見せるから】
俺はそうメッセージを君のスマホに送った。
「良いもの」の内容はシンプルだ。
また俺を見てくれ。ただそれだけ。

空はどこまでも青く、太陽は眩しく、頬に触れる風はすがすがしい。
校舎の屋上から見上げる景色は初めて見るものだ。
冷静なもう一人の自分が突然の出来事に立ち尽くす。

しかしすぐに、我に戻ると俺は新しい一歩を踏み出した。
足先を空中に差し出し、体重をかける。
すぐに景色が反転した。
視界が逆さまになり、俺の体は地面に向かって落ちていく。

最後のその瞬間、確信することがあった。
……再び視線をくれた君の記憶に、俺はずっと残り続けるだろう。
一瞬だが永遠にも感じられるその時に見えた君の表情。
絶望とも驚愕とも恐怖の入り交じった表情。
間違いない。
俺のことを、君は一生忘れないだろう。ずっと思い出すことだろう。夢に見ることだろう。
俺はそう思いつつ意識を手放して。

薄っすらと笑みを浮かべていた。

881 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 ダークネスオブザ暗黒シャドウソード :2021/03/06(土) 00:36:45.13 ID:Wa6noYv/0.net
突然の出来事に立ち尽くす。
 目の前には盗賊どもの屍の山が築かれ、己の右手には見知らぬ長剣が握られている。気付いた時には、そうなっていた。
 剣の刀身は常軌を逸した黒色ゆえに、宵闇の中でさえはっきりとした輪郭を浮かび上がらせている。蒼い刃紋が生きているかのように波打ち、移動し、ルーン文字を形成し、組み変わる。常に変化し続ける模様は一度たりとも過去と同じ形に留まることがない。
 剣は意思を持っていた。
『どうだ、兄弟。力が湧いてくるだろう』
 輝くルーン文字を目で追う内、頭の中に声が響いた。ひどく蠱惑的な抑揚で、とても落ち着いた声量で。
『お前がやったんだ。兄弟』
 十余人の盗賊殺しなど、病に蝕まれたこの身で出来る訳がない。
 僅かな余命を宣告されていたのだ。城の寝室に横たわり、あと一度だけ短い人生を嘆けば命尽きる。エル王子という名ばかりの弱者はそういう運命にあったはずだ。
『俺がいる限り、お前が死ぬことはない』
 剣はそう言うが、もはや視界の端々が色を無くし始めている。両目を開いているにも関わらず、見えるものが失われていく。地に立つ感覚はとうに無い。
『安心しろ。この世は糧で満ちている』
 窄まった視界で空を仰ぎ、思い至る。
 ああ。暗いと思えば、今宵は新月か――。

 気が付くと、屍の前ではなく質素なベッドの上いた。
「あっ、起きたね」
 若い女が心配そうに覗き込んでいる。
 硬質そうな髪を後ろで束ね、顔は泥で汚れている。あまり裕福とはいえない出で立ちだ。
「ここは私たちの村よ。あなた、行き倒れになってたんだから」
「そうか。ありがとう」
 倒れていたということは、あれは夢ではないらしい。
「体は大丈夫?」
「大丈夫だ。どこもおかしくはない……」
 ベッドから起き上がり、腰を回してみる。死の淵にいたとは思えないほど身体が軽い。
「そっか。無事でなにより。 私はライラだよ。よろしくね!」
 宝石のような瞳と、屈託のない笑顔。見知らぬ俺の無事を祝うライラは、装いこそ貧相だが美人だった。
「エドだ」
「あまり聞かない名前だね。あ、でもエル王子と少し似ているかも」
「……そうだな」
 本名を名乗る気は起きなかった。命の恩人がへりくだる姿など、見たくもない。
「ところで、その剣ってそんなに大事なの? 眠っている間もずっと抱えてたけど」
 言われて初めて気付いた。俺の右手には例の黒剣が握られたままになっている。鞘に収められているせいか、あの声は聞こえてこない。
「これで盗賊狩をしていた」
「と、盗賊を? 一人で?」
「ああ。最後の相手は十人を超えていた」
「へえ、バケモノみたいに強いのね!」
 ライラの驚いたり喜んだりする表情が見たくて、つい調子にのったことを口走ってしまう。返ってくる反応も歯に衣を着せないものばかりで新鮮だった。そうしたやり取りが夢のように楽しくて、あっという間に一日が終わり、三日目を迎え、一週間を通り過ぎていた。

 村に来て十五回目の朝。隣で眠るライラを見て、安らぎを感じていた。このまま村民となるか、王子であることを明かしてライラを側室に迎え入れるか、どちらかを悩む時間さえ愛おしくなっていた。

 その晩、村は盗賊団の襲撃にあった。
 火を放たれて半壊した村を背に、盗賊どもが詰め寄る。
「降伏か死か選べ」
「集落を滅ぼしてまわっているのはお主らか」
「身に覚えはないが、お前達が望むならそうしよう」
 盗賊の頭領が手を挙げると、村長の胸に矢が突き刺さる。崩れる村長を目にして、村人たちの戦意は失われていた。

 腕を掴むライラに一言「行ってくる」と言うと、小さく頷いてくれた。

 村人たちの前に躍り出て、盗賊団と対峙する。迫る矢を鞘で弾き黒剣を抜くと、ひどい耳鳴りがした。頭の中で嵐が吹きすさぶようだった。視界は灰色に支配され、吹き出す魂の色だけが鮮烈な赤となっていた。ひたすら赤色を求めて、手を伸ばす。灰色の世界に彩度を与える。くすんだ色にならぬよう、赤を吸い上げてこの身に馴染ませる。赤く。更に赤く──。
 最後の赤色を吸い込むと、ようやく嵐が収まった。
『満足したか。兄弟』
 目の前には盗賊どもの屍の山が築かれ、己の右手にはよく馴染んだ長剣が握られている。気付いた時にはそうなっていた。
『盗賊ども、か。今日はずいぶんと明るいはずだが』
 満月が屍体を照らす。真っ赤なドレスを着た骸があった。なぜだか、熱いものが込み上げてくる。
 己の頬を伝うこれは、なんだろうか。
 黒剣を掲げ、月光に映る顔を覗き込む。
『どうだ、兄弟。力が湧いてくるだろう』
薄っすらと笑みを浮かべていた。

882 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 00:46:16.68 ID:v2rwVnoD0.net
突然の出来事に立ち尽くす。
突然の出来事に呆然とする。
突然の出来事に面を食らった。

これら三つの表現は、どれも「突然思いがけないことが起こって驚いているさま」である。
日本語というのは非常に面白く、同じ状況を表すのにたくさんの言葉がある。
日本語一筋で生きている私でさえ難解であったり、一生使うことのない表現もある。
だから、
「ニホンゴ、ムズガシイ。オトウサン、スゴイ」
 一人娘の夫となったブラジル出身のアルベルト・ディニス・ドゥモン・チャーリングトングァ・エヴィオンベエにはよく困った顔色で僕に質問してくる。
「オトウサン、タスケテ」
「どうした?」
「このニホンゴ、ワカラナイ、教エテ」
 鍛え抜かれた上腕二頭筋を白のTシャツでアピールしながら、アルベルトはスマホの画面を押し付けてくる。
「どれどれ」
 僕は老眼鏡をかけスマホの文字の羅列を眺めた。そして、
「これはまだアルベルトには早いんじゃないかな」
 と肩を窄め嘆息する。しかし義理の息子アルベルト・ディニス・ドゥモンは涙ながらに懇願している。スマホにはこう書かれていた。

生花(いけばな)を生き甲斐(いきがい)にした生え抜き(はえぬき)の生娘(きむすめ)。
生絹(すずし)を生業(なりわい)に生計(せいけい)を立てた。
生い立ち(おいたち)は生半可(なまはんか)ではない。
生憎(あいにく)生前(せいぜん)は生(う)まれてこのかた生涯(しょうがい)を通して生粋(きっすい)の生(うぶ)だった。
名前は羽生(はにゅう)とも羽生(はぶ)とも呼べ。
「いや日本人にも難しい!」
僕は怒った(いかった)。すごく怒った(おこった)。
 なぜこんなにも同じ漢字で違う意味を持つのだろうか。
 羽生と羽生に至ってはどちらも同じ感じではないか。
 「アルベルト君。君はまだ来日して一年も経っていないだろう?日本歴五十九年の大ベテランの僕でも難しいよこれは」
「でもワタシ、二ホンの国籍トッタ。ニホンジンにナッタ」
「分かるけども」
「そしてオトウサンのムスコにナッタ。オトウサン、とてもスキ。家族スキなオトウサン、ダイスキ」
「アルベルト・ディニス・ドゥモン・チャーリングトングァ・エヴィオンベエ君……!」
 僕は感極まった。
 なんとまぁ素敵な男が婿に来てくれたのだろう。彼は彼なりに、日本に触れ、日本を、そして家族を愛そうとしているのだ。
 最初、娘が彼を連れてきたときは、怒り狂いそうだった。
 百九十センチを超えた白Tシャツのブラジル人が、白い歯をひんむき玄関に立っている姿は今でも忘れない。
 もうおなかの中に子供がいると知ったときは、妻とともに玄関で泡を吹いたくらいだ。
「ワタシ、ガンバル。オトウサンにミトメテ、モライタイ」
「十分、もう十分だよ。君はもう立派な家族だ、アルベルト・ディニス・ドゥモン・チャーリングトングァ・エヴィオンベエ君!」
僕は息子と抱きしめ合う。もしかしたら僕がただ抱きしめてられるだけかもしれないが、そんなことは些細なことだ。
「アルベルト……よかったわね」
 二人の親子の愛を、娘である裕子・ディニス・ドゥモン・チャーリングトングァ・エヴィオンベエが涙を流しうっすらと笑っていた。
 息子との最高の一日を過ごしてから数か月がたち、ブラジル人息子は少しずつ日本語を勉強していった。
 ある日、息子はまた僕に話しかけてきた。
「ワタシネェ、最近創作にはまってマス。日本語の勉強に、なりマス」
「創作?」
「ハイ、創作デス。お題もらって、考エル」
 そういうとアルベルトはいつものようにスマホの画面を押し付けてきた。
「どれどれ」
 そこにはこう書かれていた。

第五十六回ワイスレ杯のルール!
設定を活かした内容で一レスに収める!(目安は二千文字程度、六十行以内!)
今回の超高難度の設定!
最初の一行と最後の一行を固定して書いて貰う! 二つが揃って初めて参加資格が得られる!一つでも無視すると即失格! 微妙に言葉を変える行為も等しく弾く! では、お題を発表する!
最初の一行
突然の出来事に立ち尽くす。
最後の一行
薄っすらと笑みを浮かべていた。

883 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 00:47:53.58 ID:38FLQq1V0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 「こう……じ、宏治さんなの?」
 ホテルから若い女と出て来たのは確かに理緒の恋人、宏治だった。
 コロナ禍でマスク姿とはいえ間違いなかった。がっしりとした腕が女の肩を抱いている。
 宏治と女も、硬直したように固まっている。
 久々の街への買い物で、こんなことに出くわすとは。

 宏治が険しい顔で口にする。
 「すまない……真弓のこと、話そうと思っていたんだ」
 そのあとを聞くことはできなかった。すぐに逃げ帰った理緒だったが、一緒に暮らす部屋で結局は別れ話となった。
 同棲して七年。以前は、彼も籍を入れようと匂わせていたではないか。三十路となった古女房のような女はいらないというわけなのか。
 八歳上の宏治は元いた会社の上司だった。未来ある有望株の宏治のために、二人の付き合いは秘密だった。上司が部下に手を出すのはその会社のご法度だ。同棲を始めると、理緒は会社を辞め転職までした。
 そのうえ、見た目と反して生来は身体が弱く持病を持つ彼のために、食事や生活の管理など細かく心を配って尽くした。宏治が体調を崩すことなく昇進できたのは、理緒のお陰と言っても過言ではなかった。
 「真弓は俺がいないとダネなんだ。君はしっかりしているし一人でなんでも出来る」
 惚れ抜いた男が、自分との別れを望んでいる……。溢れそうな言葉を飲み込み、理緒は荷物をまとめると部屋を出た。宏治を愛し過ぎていた。

 借りたアパートの一室で、理緒は酒浸りとなった。
 昼間は辛うじてリモートワークをこなすが、夜になると呑んで回った。開いている店ならどこでもよかった。人の気配を感じたかった。
 男達がはべる店にも行った。なんでもいい。忘れさせてくれるなら。男達にしなだれかかり、ひどく酔っては介抱された。相当、散財もした。
 
 三週間が過ぎる頃には、理緒は心身ともにボロボロだった。
 浮腫んだ顔を触る。頭痛は激しく、眼は熱を持ち血走っている。
 派手なピンク色のホテルから、二人が出て来た場面が頭から離れない。
 ―――ここ二年くらい、彼は私に全く触れなかった。持病のせいだと思っていたけど、あの若い子とならそういうことが出来るんだ……。
 涙と鼻水でむせて咳き込む。苦し過ぎる。苦し過ぎる。
 
 ―――このままではダメだ。未練を断ち切らないと生きてはいけない。 
 力を振り絞る。やっと腰を上げると、シャワーを浴び入念に化粧をした。
 
 訪ねると、宏治はすんなりと部屋に入れてくれた。
 「お願いがあるの。せめて最後だけ……」
 彼女の言葉に、宏治は頷いた。
 まとめていた長い髪をほどく。
 理緒は彼の唇を自身の熱のこもった唇で塞いだ。彼女が舌を入れると、最初は力のなかった宏治の舌が固くなり、理緒の歯茎をなぞる。
 彼女は宏治を押し倒すと馬乗りになり、自分の服に手をかける。彼の腰の上で白く柔らかな肌を露わにしていった。

 翌朝、まだ眠る宏治を暫く見つめると、理緒は去っていった。
 
 ひと月くらい経ったろうか。生活もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
 久しぶりに、たまに連絡をとる元の会社の同期に電話をかけてみる。
 相手は理緒の声を聞くや、話したくてたまらないというように興奮してしゃべり始めた。

 「上司だった太田宏治さん、覚えてる? 四日前コロナウイルスで亡くなったの」
 「それがね、感染ルートがわからないらしいの。職場のみんな検査したんだけど、秘書課の小山真弓って人だけ陽性だったのよ。濃厚接触はないはずなのにおかしいって専らの噂」
 「その子は無症状だったけど、同居のおばあさんが集中治療室……」
 まくし立てる元同僚の声が遠くなっていく。
 
 通話が終わっても、スマホを強く握りしめていた。
 宏治は肺をやられ、水に溺れるかのごとく苦しんで死んだようだ。
 それを思うと理緒の胸にぐっと込み上げるものがあり、身体を丸めた。

 どれくらい時間がたったのだろう。
 顔を上げた理緒は、紙袋から真新しい白いワンピースを出すとそれに着替えた。
 春の陽光が差す外へ出ようと玄関に向かう。
 ふと思い付き、バッグから名刺入れを取り出す。中には数十枚のホストクラブの名刺があり、それぞれ源氏名が書かれている。
 名刺をゴミ箱に放り投げると、理緒は呟いた。
 
 「死ぬまでいくとは想像以上だったけど」

 薄っすらと笑みを浮かべていた。

884 :第五十六回ワイスレ杯参加作品 :2021/03/06(土) 01:43:27.82 ID:38FLQq1V0.net
 突然の出来事に立ち尽くす。
 「こう……じ、宏治さんなの?」
 ホテルから若い女と出て来たのは確かに理緒の恋人、宏治だった。
 コロナ禍でマスク姿とはいえ間違いなかった。がっしりとした腕が女の肩を抱いている。
 宏治と女も、硬直したように固まっていた。
 久々の街への買い物で、こんなことに出くわすとは。

 宏治が険しい顔で口にする。
 「すまない……真弓のこと、話そうと思っていたんだ」
 そのあとを聞くことはできなかった。すぐに逃げ帰った理緒だったが、一緒に暮らす部屋で結局は別れ話となった。
 同棲して七年。以前は、彼も籍を入れようと匂わせていたではないか。三十路となった古女房のような女はいらないというわけなのか。
 八歳上の宏治は元いた会社の上司だった。未来ある有望株の宏治のために、二人の付き合いは秘密だった。上司が部下に手を出すのはその会社のご法度だ。同棲を始めると、理緒は会社を辞め転職までした。
 そのうえ、見た目と反して生来は身体が弱く持病を持つ彼のために、食事や生活の管理など細かく心を配って尽くした。宏治が体調を崩すことなく昇進できたのは、理緒のお陰と言っても過言ではなかった。
 「真弓は俺がいないと駄目なんだ。君はしっかりしているし一人でなんでも出来る」
 惚れ抜いた男が、自分との別れを望んでいる……。溢れそうな言葉を飲み込み、理緒は荷物をまとめると部屋を出た。宏治を愛し過ぎていた。

 借りたアパートの一室で、理緒は酒浸りとなった。
 昼間は辛うじてリモートワークをこなすが、夜になると呑んで回った。開いている店ならどこでもよかった。人の気配を感じたかった。
 男達がはべる店にも行った。なんでもいい。忘れさせてくれるなら。男達にしなだれかかり、ひどく酔っては介抱された。相当、散財もした。
 
 三週間が過ぎる頃には、理緒は心身ともにボロボロだった。
 浮腫んだ顔を触る。頭痛は激しく、眼は熱を持ち血走っている。
 派手なピンク色のホテルから、二人が出て来た場面が頭から離れない。
 ―――ここ二年くらい、彼は私に全く触れなかった。持病のせいだと思っていたけど、あの若い子とならそういうことが出来るんだ……。
 涙と鼻水でむせて咳き込む。苦し過ぎる。苦し過ぎる。
 
 ―――このままではダメだ。未練を断ち切らないと生きてはいけない。 
 力を振り絞る。やっと腰を上げると、シャワーを浴び入念に化粧をした。
 
 訪ねると、宏治はすんなりと部屋に入れてくれた。
 「お願いがあるの。せめて最後だけ……」
 彼女の言葉に、宏治は頷いた。
 まとめていた長い髪をほどく。
 理緒は彼の唇を自身の熱のこもった唇で塞いだ。彼女が舌を入れると、最初は力のなかった宏治の舌が固くなり、理緒の歯茎をなぞる。
 彼女は宏治を押し倒すと馬乗りになり、自分の服に手をかける。彼の腰の上で白く柔らかな肌を露わにしていった。

 翌朝、まだ眠る宏治を暫く見つめると、理緒は去っていった。
 
 ひと月くらい経ったろうか。生活もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
 久しぶりに、たまに連絡をとる元の会社の同期に電話をかけてみる。
 相手は理緒の声を聞くや、話したくてたまらないというように興奮してしゃべり始めた。

 「上司だった太田宏治さん、覚えてる? 四日前コロナウイルスで亡くなったの」
 「それがね、感染ルートがわからないらしいの。職場のみんな検査したんだけど、秘書課の小山真弓って人だけ陽性だったのよ。濃厚接触はないはずなのにおかしいって専らの噂」
 「その子は無症状だったけど、同居のおばあさんが集中治療室に……」
 まくし立てる元同僚の声が遠くなっていく。
 
 通話が終わっても、スマホを強く握りしめていた。
 宏治は肺をやられ、水に溺れるかのごとく苦しんで死んだようだ。
 それを思うと理緒の胸にぐっと込み上げるものがあり、身体を丸めた。

 どれくらい時間がたったのだろう。
 顔を上げた理緒は、紙袋から真新しい白いワンピースを出すとそれに着替えた。
 春の陽光が差す外へ出ようと玄関に向かう。
 ふと思い付き、バッグから名刺入れを取り出す。中には数十枚のホストクラブの名刺があり、それぞれ源氏名が書かれている。
 名刺をゴミ箱に放り投げると、理緒は呟いた。
 
 「死ぬまでいくとは想像以上だったけど」

 薄っすらと笑みを浮かべていた。

885 :この名無しがすごい! :2021/03/06(土) 01:50:45.98 ID:38FLQq1V0.net
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