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ワイが文章をちょっと詳しく評価する[77]
- 643 :この名無しがすごい!:2017/08/23(水) 22:48:55.66 ID:kGxUDJmS.net
- お願いします。
描写力の鍛錬のために書いた習作です。
実体験をそのまま文章化したものなので、オチはありません。
「その日は雨。駅前の交差点で」
電車の窓ガラスにポツポツと水滴が当たり始めたのを見た時、ああ今朝の天気予報は当たったな、と思った。
夕暮れ時の車内はけっこう混み合っているが、ギュウギュウ詰めという程でもない。俺はドアにもたれかかったまま、流れる景色と雨粒を眺めた。
窓越しには小雨程度にしか見えなかったが、電車を降り駅の外に出てみると、結構な本降りになっていた 。
まあいいや。
久しぶりに仕事が早く上がった今日は、特に急ぐ用事もない。その辺で飯でも食べて帰ろうと思っていただけだ。
そうだな。雨音を聞きながら、のんびりと本を読むのも悪くない。
そんなことを考えながら、傘を広げて歩き出す。
ロータリーを回り、横断歩道に差し掛かったところで信号機が点滅を始めた。
そのまま行ってしまっても良かったのだが、俺は別に慌てることもないかとその場に立ち止まった。
そこへ後ろから、大学生くらいの女の子が傘も差さずに走ってきた。
女の子は信号が変わる前に渡り切ってしまうつもりのようだったが、寸前で思い留まったらしく、俺のすぐ隣で「おっとっと」という感じで止まった。
その様子をなんとなく横目で眺めていたら、その子がふいにこちらに振り向き、目が合ってしまった。
反射的に目をそらしてしまう、気弱な俺。
外した視線は、彼女のずぶ濡れの頭のところで止まった。
あー、ここの信号長いんだよな。これはちょっと可哀想かも…。
もしかしたら、顔に出ていたかもしれない。
女の子はその微妙な表情に気づいたのか、恥ずかしそうに肩をすくめながら俺の傘を見上げ、照れ隠しのように「入っていいですか?」と言ってきた 。
この笑顔に逆らう理由はない。
俺も笑って「どうぞ」と傘を差し出した。
女の子は「有難うございまーす」と言って体を寄せてきた。
これも照れ隠しなのだろうか。ほんの半歩ほどの距離を、ぴょんと跳ねるようにして。
肩が触れ合う。
思わず離れようとしたが、彼女は気にせずそのまま押しつけてきた 。
うわ、柔っこい… 。
何か気の利いた会話でもしなきゃと思いながら、ヘタレな頭には何も浮かばない。
信号もすぐには変わらない。
永遠とも思われた長い沈黙の後、信号が変わり二人は歩き出した。
「どっかに傘売ってないですかねー」と、彼女。
目の前に、大きな黄色い看板があった 。
「マツキヨに売ってんじゃないの?」
「あっ、そうですねー」
あまりにそっけない会話。
どこまで行くの? とか
送って行こうか? とか
食事でも? とか
うん、無理。
そんな器用なことを言えるような男じゃないことは、俺自身が一番良く知っている。なにしろ二十数年もの長い付き合いだ。
むしろ、余計な言葉を吐かず、ごく自然に「どうぞ」と笑えた自分を褒めてやりたい気分だ。
横断歩道を渡り切ると、彼女は「有難うございましたー」と手を振りながら、店の中へ走り去って行った。
俺も「バイバイ」と軽く手を上げた。ごくごく自然な笑顔で。
明日も雨、降らないかな。なんて思いながら……。
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